公認会計士等の異動2024年3月は4社と前年比半減 2022年をピークにトレンドが変化?!

はじめに(当事務所のご紹介と今回のブログ)

当事務所は、非上場の法定監査・任意監査を専門に行う公認会計士事務所であり、上場会社の監査のご依頼は受けておりません。

当事務所の会計監査対応地域は東京を含む原則全国対応ですが、効率性の観点から、大阪府(主として大阪市を含む北部大阪)、神戸市を含む主として兵庫県南部、京都市を含む京都市周辺地域のご依頼を優先しています。

他方で、当事務所のブログは上場会社の最新の公認会計士等の異動など、監査・税務に関する環境変化については積極的に情報を発信する方針であり、今回は、2024年3月単月の上場会社等の公認会計士等の異動についてご紹介します。

ご存じの方も多いと思いますが、大手監査法人からの会計監査人の変更先として大きな受け皿となっていた太陽監査法人が2024年1月から3月まで新規監査契約の受嘱を停止されています。

少なからずその影響もあってか今年の3月の異動件数は前年の8社から4社へと半減しました。

しかし、もっと大きな公認会計士等の異動のトレンドの変化が起きているようです。

会社法監査やその他法定監査・任意監査のご依頼はまだ受け付けておりますので、問い合わせフォームよりお申し込みください。

決算期(特に3月決算)によっては当事務所は経験豊富な人材による監査チームを組むため人的資源に限りがあり、お断りする場合があることをご了承ください。

異動4社中3社はやはり監査報酬の値上げが理由か

・監査事務所の規模別異動状況

 (退任会計監査人)(就任会計監査人)(異動会社数)
大手監査法人中小監査法人2社
中小監査法人中小監査法人2社

3月は、①の大手から中小へと②の中小から中小への2極化が鮮明です。準大手の太陽監査法人の行政処分の影響があるのかもしれません。

①の場合は、異動理由において監査報酬の負担増加(IRでは多くの会社が「当社の事業規模に見合った監査対応と監査費用の相当性を考慮」などと記載します)を明確に記載する傾向にあります。

一方、②の場合は、監査報酬の負担増加を明確に記載しにくいのでしょう。こっそり、理由の最後の方に「監査費用の相当性などを総合的に勘案し」などと記載する傾向にあるようです。

中小監査法人から中小監査法人への異動において、監査報酬の値上げを回避するような表現は、株主にとって突っ込みどころ満載のため記載しにくいのでしょう。

大手から中小への異動の具体的事例

・まず、大手から中小への異動は以下のIRをご紹介します。

株式会社ジェイック/東証グロース(7073)

IR公表日 :2024/03/15

異動年月日:2024/04/26

退任監査人: EY新日本有限責任監査法人

就任監査人: UHY東京監査法人

異動理由:[任期満了]

当社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人は、2024年4月26日開催予定の第33回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。現在の会計監査人については、会計監査が適切かつ妥当に行われることを確保する体制を十分に備えているものの、近年、監査報酬が増加傾向にあることなどを契機として、当社の事業規模に見合った監査対応と監査費用の相当性を考慮のうえ、複数の監査法人を対象に比較検討してまいりました。UHY東京監査法人の監査体制、経験、専門性等の職務遂行能力及び独立性、品質管理体制、監査報酬等を総合的に検討した結果、当社の事業規模に適した会計監査人として適任であると判断し、UHY東京監査法人を当社の会計監査人候補者に選任するものであります

「監査報酬が増加傾向にあることを契機として」と監査報酬の負担軽減を明言しています。率直で好感が持てる異動理由です。

就任監査人が2022年に金融庁から行政処分を受けたUHY東京監査法人です。株主から批判があるのではないかと心配になりますが、なりふり構わず、「安価な監査報酬」を選んだのでしょう。

中小から中小への異動の具体的事例

・中小から中小への異動理由を見てみましょう。

株式会社ナイガイ/東証スタンダード(8013)

IR公表日 :2024/03/29

異動年月日:2024/04/25

退任監査人: アーク有限責任監査法人

就任監査人: シンシア監査法人

異動理由:[任期満了]

当社の会計監査人であるアーク有限責任監査法人は、2024年4月25日開催予定の第127回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。そのため、新しい会計監査人の起用による新たな視点での監査が期待できることに加え、シンシア監査法人の専門性、独立性、規模、品質管理体制及び監査費用の相当性などを総合的に勘案し、シンシア監査法人を新たな会計監査人として選任する議案の内容を決定したものであります。

上記のように異動理由については監査費用の相当性については最後の方で目立たないように記載しています。

しかし、会社は124期(3年前)にトーマツの監査を受けて46百万円の監査報酬を支払い、125期にアークに会計監査人を異動し、125期と126期は29百万円の監査報酬を支払った(17百万円減額)と有報に記載しています。

126期の単体の経常利益は14億1千万円の赤字経営となっています。

さて、127期の有報(2024年4月公表予定)を見るまでアーク監査法人が3年目の監査報酬を値上げしたのかどうかわかりませんが、上記異動理由の「新たな視点での監査が期待できる」はアーク監査法人が3年しか監査していないことを考えるとその異動理由に無理があると感じないでしょうか。因みにシンシア監査法人とはどの程度の監査報酬で契約するのかは128期(2025年4月公表予定)の有報を見るまで分かりません。

とにかく、あまり好ましくない異動理由を記載している典型例と言えるでしょう。

※監査法人の直近の監査業務年間売上高

・トーマツ:893億34百万円

・アーク:19億88百万円

・シンシア:2億10百万円

まとめ(現在および今後のトレンド)

監査法人に勤務する公認会計士はここ数年減少傾向にあり、監査法人における公認会計士は人手不足の状況です。

したがって、大手監査法人を中心に監査報酬は増加傾向にあります。

上記、大手から中小への公認会計士等の異動は、上場会社の中でも業績が厳しい会社や会計処理等に問題のあった会社などが、主として監査報酬の負担を軽減するため異動することが多い傾向にあります(逆に大手は手間のかかる安い監査報酬のクライアントを手放したいため会社の方から監査契約を更新しないように思い切って値上げを提案する)。

しかし、中小から中小への異動についても、上記を見れば明らかに、中小の中でもより小規模な監査法人へ異動すると監査報酬の負担は軽減されるのでは?と感じても仕方ないのではないでしょうか。

中小監査法人と言っても”ひとくくり”にはできず、一定規模(監査業務の年間売上高10億円以上)の中小監査法人は公認会計士の人手不足が原因で、監査報酬を値上げせざるを得ない状況になっています。東京近郊のバイト会計士は日当7~8万円まで高騰しているようです。

『公認会計士等の異動のトレンドは変化している?!』

「大手から準大手または一定規模以上の中小へ」のトレンドから、

「準大手や一定規模以上の中小からより規模の小さい中小へ」

というトレンドに変化しているようです。

①の大手から準大手または一定規模以上の中小へのピークは2022年であり、2023年からより規模の小さい中小への②のトレンドが強くなった結果、2023年は公認会計士等の異動が減少し、2024年はさらに減少すると考えられます。

なぜなら、より規模の小さい中小監査法人は受け皿としては小さく、太陽を中心とする準大手や中小の中でも監査業務の売上高が10億を超える中小ほど多くの会社の受け皿とはなり得ないからです。

今後、監査難民や東証から退場する企業が増える前兆なのではないでしょうか。

以上

上場

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