爽監査法人に行政処分勧告,CPAAOB(公認会計士・監査審査会)

金融庁報告書

監査審査会が処分勧告、爽監査法人に - 日本経済新聞 (2024年9月6日17:58)

公認会計士・監査審査会は6日、爽監査法人(東京・千代田)に対して行政処分などの処置をとるよう金融庁に勧告した。監査対象企業の情報を私用のメールに転送するなど情報セキュリティーの内部管理に不備が見つかったほか、個別の監査業務でも不備が見つかった。同審査会が処分勧告するのは2023年3月の赤坂有限責任監査法人(東京・港)以来となる。

爽監査法人は日本公認会計士協会が実施した品質管理レビューでも過去に不備が指摘されていた。情報管理やセキュリティー担当の職員を配置していないことや、監査品質を社員の評価や報酬に反映させる仕組みが不足していることなどを指摘。個別の監査業務では、棚卸し資産の評価手続きや減損処理などでも多数の不備が見つかったとしている。

爽監査法人に対する検査結果に基づく勧告について(CPAAOB)

以下勧告より抜粋

1.業務管理体制

統括代表社員兼品質管理担当責任者は、豊富な実務経験を有する社員が各監査業務の業務執行社員として選任されているとの認識から、各社員を過度に信頼し、各社員が実施する監査業務の品質には特段の問題がないものと思い込んでいる。このため、統括代表社員兼品質管理担当責任者は、自らを含む監査実施者において、監査の基準並びに現行の監査の基準が求める品質管理及び監査手続の水準に対する理解が不足していることを認識できていない。
さらに、各社員は、個人事務所等における非監査業務と当監査法人の監査業務を並行して実施する中で、法人全体の監査品質の改善・向上を図る意識が希薄なものとなっている。
このため、各社員は、監査調書の査閲、監査業務に係る審査、定期的な検証、品質管理レビューでの指摘事項に対する改善施策等の実施に際し、法人全体の監査品質の改善・向上に向けた、社員としての役割を十分に果たしていない。

2.品質管理体制

(情報セキュリティに関する内部規程の運用)
当監査法人においては、自ら定めた情報セキュリティに関する内部規程に反する以下の状況が認められる。
(1)法人全体の情報管理に係るセキュリティ責任者並びに監査法人の情報システム及び各監査業務に係るセキュリティ担当者を任命していない。
(2)職員が、被監査会社から入手した電子データを各人の個人 PC に保存しているほか、社員及び職員が、個人のメールアドレスに、当監査法人の業務に関連する電子メールを転送している。
(3)各社員・職員が情報セキュリティに関する内部規程等を遵守しているか否かについて、点検や内部監査を実施していない。その結果、上記のような情報セキュリティに関する
内部規程の違反事例が検出・是正されていない。

(品質管理レビューでの指摘事項の改善状況)
当監査法人は、協会が実施した令和3年度品質管理レビューにおいて、品質管理態勢及び個別監査業務に関する重要な不備を含む複数の不備を指摘されている。また、令和4年度品質管理レビューにおいて、個別監査業務に関する複数の不備を指摘されている。当監
査法人は、自ら実施した根本的な原因の分析結果に照らし、令和3年度及び令和4年度品質管理レビューでの指摘事項への対応措置を講じたとしている。
しかしながら、今回の審査会検査で検証した個別監査業務において、令和3年度及び令和4年度品質管理レビューでの指摘事項と同様の不備が複数検出されており、当監査法人における当該品質管理レビューでの指摘事項に対する改善は、不十分なものとなっている。

3.個別監査業務

業務執行社員及び監査補助者は、監査の基準及び現行の監査の基準が求める手続の水準の理解が不足していたことから、自らが実施した監査手続で十分であると思い込んでいた。
また、業務執行社員及び監査補助者は、監査業務に費やすことができる監査資源(時間)が不足していたことから、リスクの水準に適合した適切な監査手続が実施されているかについて慎重に検討しなかった。
さらに、業務執行社員及び監査補助者は、被監査会社の状況等に変化がなければ、過年度と同様にリスク評価や実証手続を実施することで十分であると思い込んでおり、リスク評価やリスク対応に係る手続を見直す意識が不足していた。
くわえて、業務執行社員は、監査補助者を過度に信頼していたことから、監査補助者が適切に業務を実施しているものと思い込み、監査補助者に対する適切な指示・監督及び監査調書の深度ある査閲を実施する意識が不足していた。
これらのことから、収益認識に関する不正リスク対応及び棚卸資産の評価に係る監査手続が不適切かつ不十分並びに固定資産の減損に係る監査手続、退職給付に係る検討及び売上高に係る実証手続が不十分といった重要な不備が認められる。

以上抜粋のとおり、典型的な中小監査事務所における業務管理を実施していたようです。

・各社員は個別の個人事務所を兼任し、ベテランの非常勤の公認会計士に補助者業務を実施してもらい、各調書のレビューも形式的であったと思われます。

・一方、非常勤のベテラン公認会計士は、会計士不足の現状、高額の日当にて雇われているが、決められた業務時間内に過去の経験を活かして監査調書を作成するが、現状の上場会社に求められるレベルの監査まで実施できる時間も日数もなかったのではないかと推測できます。

個人的な見解としては、2022年1月に業務停止を含む行政処分で解散した仁智監査法人の事例を思い浮かばせるような事案でした。

上場会社等監査人登録制度が始まって、上記のような監査法人の登録は認められない傾向にあります。

爽監査法人もみなし登録(2024年9月10日現在)の段階であり、9月末までにJICPAが行う再審査の結果、10月以降本登録が認められなければそれ以降は上場会社との監査契約は出来なくなってしまいます。

みなし登録の各上場会社を監査している監査法人等で本登録が認められていない事務所等は46あるとされていますが、JICPAが支援・指導を行っており、本登録が認められない事務所等は少ないとみられています。爽監査法人の本登録が認められるのか!注目しましょう!

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