公認会計士の会計監査:業種別監査のポイント

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はじめに

一般的な大規模な会社の組織的な監査の場合、監査基準に沿ったリスクアプローチを実施することで基本的な監査は達成可能です。 業種業態によって監査のポイントは限られており、内部統制の弱点を把握し、データ分析により 異常点を把握したなら、事実に迫る踏み込んだ監査をすることが重要となります。

ただし、当事務所が対応する中小規模の会社の場合、リスクアプローチを実施する必要がない場合もありますので、あくまで取引量が多い会社を前提に上場会社の監査に対応できる監査のポイントについて業種別に箇条書きにて検討したいと考えます。

製造業

(会計監査のポイント)

・製造販売プロセスを業務記述書等により十分に理解し、架空オーダーが発生しない業務フローになっているかを確認します。

・外注仕入品は社内で実在性を確認できない場合があるので、外注仕入については取引先別分析等により異常点がないか確認し、異常点を認識した場合は抜取実査等を行なうことになります。

・仕掛品の評価がどのように行われているかを把握し、原価配分に恣意性が入る余地はないか確認します。

・形式的な重要性の観点からJ-SOXやTOCの対象から外れている領域で不正が発生しやすいことを認識し、DA(データ分析)を適用するなど異常点分析を継続的に実施します。

請負業

(会計監査のポイント)

・会社の営業監視の仕組みがどうなっているのか、システム統制を含め内部統制を十分把握します。

品番登録の内部統制において、架空オーダーが創出されない仕組みになっているか。 (受注・設計・外注委託・原価配分・経理の分離)(前提:個別受注計算)

原価配分を営業担当者が任意に実施できるようになっていないか。

総工事原価の見積りの妥当性を確かめる根拠資料は整備されているか。

仕掛品、売掛金の滞留管理が行われており、営業に対し統制が効いているか。

売掛金残高確認の差異分析が適切に行われているか。

・異常点監査の実施

▶営業データの入手・分析により異常点を検出し、証憑突合を実施する。

・抜取りにより現場確認を行う。システム開発の場合は専門家による機能評価の依頼を検討する。

・売掛金残高確認だけでなく、対象工事に関する個別の物件確認の実施も検討する。また、多額の残高確認差異について十分検証する。翌期首取消、長期滞留は架空売上の可能性が高い。

・工事の進捗率については、全体の工程表の中での作業進捗と工事原価の発生との対応関係を確認する。

・原価配分については作業実績、労務実績資料との整合性を確認する。

サービス業

(会計監査のポイント)

・サービス事業売上プロセスを業務記述書等により十分に理解し、サービス履行実績に基づいて売上計上される業務フローになっているかを確認する。前受金をもらっている場合は、履行実績を改ざんすることにより容易に売上の先行計上が可能なので特に留意が必要。

・前受金が別の未履行サービス(架空売掛金)の回収に充当されていないか、履行の状況、前受先を確認する。

・店舗別の計数管理がどのように行われているかを把握し、異常点に対して内部調査が実施されているかを確認する。

・事務手続マニュアルの整備状況、職務分掌等を、内部統制の整備状況を把握し、循環的に店舗監査を実施し、その運用状況を確認する。

・下請け業者への発注については、取引の合理性を検討するとともに、成果物を吟味し、取引価格の妥当性を検討する。(架空の受注および下請向け発注はないか)

・預金通帳を通査し、期末付近の多額の入出金取引など、特定の振込先など、異常な変動がないか確認する。

・経営者・役員の自己決裁による単純な手口も多いので、期首・期末の多額あるいは丸い数字の損益関連仕訳を通査し、 異常点があれば必ずヒアリングし、必要なら実証手続を行う。

・クレーム台帳を閲覧して、クレーム処理が迅速に経理処理されているかを確認する。

・営業債権の滞留は顧客クレームを示唆している場合が多いので、売上計上プロセスに瑕疵がなかったか確認する。

・拠点往査の際には、営業実績入力と売上計上がどのように行われているか、承認手続、帳票管理の状況について業務手続マニュアル等と照らし合わせて、実地に確認し、内部統制の整備・運用状況を把握する。

・グループ会社を含め営業監視システムに弱点があれば、監査役、内部監査室、業務管理部署と情報共有し、業務改善の依頼を行う。

小売業

(会計監査のポイント)

・売上、仕入、在庫の計上・払出が100%連動しているかどうか、在庫の数量・単価・金額が営業担当者により操作できないシステムになっているかをまず確認する。棚卸差異修正以外の在庫操作が出来るとしたら誰がどのタイミングでできるかをヒアリングや業務マニュアルの閲覧等により確認する。

・店舗ごとの棚卸方法について、内部牽制が効くようになっており、誤カウント、誤記入が防止できるような方法になっているか確認する。

・会社が店舗ごとの計数管理を行い適切に監視、指導する体制になっているか確認する。不十分な点があれば改善事項として指摘する。

・DA(データ分析)により店舗ごと、あるいは営業担当者ごとの売上、粗利率、経費率、債権債務、在庫等の月次推移、修正 入力頻度、時間外入力件数、1人当たり指標等の計数分析や、期首・期末の売上・売上取消の異常取引分析を行い、異常性を示す店舗が検出されれば、ヒアリングの実施、物流証憑の照合、内部監査室への調査依頼、現地往査の実施等必要性を判断して追加手続きを実施する。

・期中に抜取りで現物実査を行い、店舗における在庫管理状況を確認する。また、現場での売上、仕入、在庫の計上・承認 手続をヒアリングし、帳票の管理状況を確認する。店舗ごとに管理レベルにバラツキがある場合はその旨会社に指摘し、改善依頼する。

・仕入リベートについて、計上証憑と突合するだけでなく、取り決めの存在を確認し、滞留の有無を必ず確認する。また、場合によっては仕入先に対し残高確認の実施も検討する。

・異常な棚卸差異が出ていないかを確認する。あれば、ヒアリングを実施し、必要なら物流証憑と照合する。

・期末実地棚卸立会の際に倉庫移動等の理由で現物確認ができないものがある場合は、横流しや在庫水増しの可能性があるものと認識し、当日中に物流証憑と照合のうえ事実確認する。

卸売業

(会計監査のポイント)

・会社の営業監視の仕組みがどうなっているのか、システム統制を含め内部統制を十分把握する。

▶ 部署別・担当者別の計数管理が行われており、異常点を検出し、調査する体制になっているか。

▶在庫預け先に対し抜取実査をしており、相手先の管理レベルを評価しているか。

▶ 海外在庫、外注預け在庫の増減について監視しているか。

▶ 売掛金残高確認、在庫照合の差異分析が適切におこなわれているか。

▶ 得意先でもあり仕入先でもある取引先との取引内容を把握しているか。

▶ 例外取引の申請制度は機能しているか。

・異常点監査の実施

▶ 営業データの入手・分析により異常点を検出し、証憑突合を実施する。

▶ 重要度の高い商流について、営業マンに直接ヒアリングする。

▶ 仕入先への前渡金はないか?前渡金が仕入先から得意先へとわたり架空売掛金の回収に充当されることもある。

おわりに

以上、上場会社の金融商品取引法監査に適用できる会計監査のポイントについて業種別にみてきました。

上記会計監査のポイントはあくまで原則的な監査のポイントであり、非上場の会社法監査などの場合はもっと簡略的に会計監査を行いますが、ポイント自体は共通でありどのような規模の監査においても参考となるかと考えております。

会社の内部監査担当者の方、監査役、経理の責任者等の他の部署の不正等を管理・監視される方の業務の参考となれば幸いです。

現状で、新規の会計監査人をお探しの会社の担当の方、会計監査人の変更をお考えの会社の担当の方、横田公認会計士事務所までご依頼・ご相談ください。

 まだもう少し新規に監査を引き受けることが可能です。

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