公認会計士の会計監査:業種別不正事例の検討
はじめに
監査基準に沿ったリスクアプローチを実施することで基本的に不正リスク対応監査は達成可能です。 業種業態によって不正のパターンは限られており、内部統制の弱点を把握し、データ分析により 異常点を把握したなら、事実に迫る踏み込んだ監査をすることが重要となります。
それでは、業種別に典型的な不正パターンを見てみましょう。
製造業
・ 製造販売プロセスの中で不正が発生するケースは比較的少ないですが、仕掛品等の在庫操作に関係した不正は一般的に行われる傾向があります。
① 棚卸データを改ざんして在庫水増するケース、
② 原価計算を利用して原価配分を操作するケース、
③ 有償支給材など仕入先・外注先を絡めた在庫単価の調整などいくつかの手口が存在する。
・ 本社や事業部、あるいは関係会社の経営者・役員が利益創出ないしは横領目的で不正経理の伝票を自己決裁するケースが多く見られます。経営者による内部統制無効化の事例が多いのが特徴です。取引先に請求書等の外部証憑の偽装を依頼する場合もありますが、承認権限者による自己決裁という単純な手口で多額の不正経理が行われる場合も多いと考えられます。
・支店や営業所で仕入先や外注先と通謀ないしは単独で経費等の架空・水増計上を行いキックバックや支払資金の搾取等の不正を行うケースが多いと考えられます。小さな金額を数年間に亘り操作している場合が多く、発見が遅れ被害が数億円に上ることもあります。
・本業以外の請負事業や商品売買事業で起こるケースが多くあります。専業の請負会社や商社に比べ内部統制が弱いことが多く、事業特有の架空オーダーや原価付替、循環取引といった手口で不正が行われます。
請負業
実在する品番間あるいは架空オーダーの創出による品番への原価付替による損益操作や工事進行基準の適用による売上創出の手口が幅広く見られます。
取引先との貸し借りができやすい業界であるため、営業担当者ないしは責任者が自ら品番間の原価配分を行うことができる状況があると、不正経理は比較的簡単にかつ大規模に行われることになります。
卸売業
事業部、支店、営業所の部長、課長、営業担当者が複数の取引先と結託して外部証 憑を偽造し、架空仕入・架空売上を計上、それが常態化し循環取引に発展するケースが多いと考えられます。
以下の特徴があります。
・証憑書類に異常はなく、資金循環により決済も通常通り行われるため、スキーム全体が破たんするまで発見が難しい
・関係者が多岐にわたり、複雑で多数の経理操作が行われ、不正の全容解明に困難を伴う
・損失額自体が多額になりやすい上に、取引先、規制当局、メディア対応等に膨大な時間とコストがかかる
小売業
・小売業では店舗在庫の水増しによる利益創出が典型的な不正のパターンであり、主に3つの段階における手口があります。本社側でシステムのデータベースやプログラム自体を操作してデータを改ざんするようなケースもあり、場合によって深刻な影響額になることも考えられます。
① 店舗側で実地棚卸表を改ざんする
② 店舗側で実地棚卸表とは異なる在庫データを入力する
③ 本社側で店舗からの在庫データを改ざん、ないしはそれと異なる在庫残高を仕訳入力する
・仕入割戻が大きな損益インパクトを持つ場合が多く、その架空計上により損益操作を行う場合も見られます。
・架空の経費や返品等、金券やサービス券等を利用した少額反復型の横領事例も多いと考えられます。
サービス業
・サービス事業自体のプロセスの中で不正が発生するケースは比較的少ないですが、支店や営業所で虚偽の業務実績を捏造して架空売上を計上するケースがあります。
・サービス事業では顧客を欺いて不正を行うことは、顧客が過大請求等の異変に気づくため多くはないですが、 顧客に依頼し、検収を早めるなどで、売上の前倒計上を行うケースは見受けられるといえるでしょう。
・本社や関係会社の経営者・役員が利益創出目的で不正経理の伝票を自己決裁するケースが多く見られるようです。製造業に見られるのとほぼ同様に、経営者による内部統制無効化の事例が多いといえます。
・サービス業務を架空で得意先から受注し、架空で下請け業者に発注することを通じで、架空の売上高および原価(外注費)を計上するケースもあるようです。
おわりに
全ての業種において、次の不正のパターンが幅広く見られます。
・場所 ・・・ 本社や事業部、関係会社において
・人 ・・・ 経営トップや役員が
・動機 ・・・ 利益創出のため
・手口 ・・・ 承認権限者の地位を利用した自己決裁の手口という単純な手口で
・規模 ・・・ 比較的多額の不正を行っている
手口としては、時に友人や元部下といった仲間が経営している会社等と通じている場合がありますが、手間のかからない方法で経理伝票を起こし、自己承認している場合がほとんどといえるでしょう。 また、動機としては、まれに経営難に陥った関係会社を支援するために行う場合や、オーナー経営者が専横して会社資産を横領するケースもあります。
以上、業種別の不正事例について考察しました。貴方の業種で当てはまることはないでしょうか。
会計監査の目的は制度上、財務諸表の適正性について意見を表明することであり(監査基準第一)、第一義的には不正を発見することを目的としていない。一方投資家は会計監査人に不正発見を期待しているため、古くから「期待ギャップ」ということが言われてきました。特に上場会社において不正により投資家が損失を被る事例が発生し、会計監査人が不正対応時に遵守すべき基準として、企業会計審議会により平成25年3月26日に公表された「監査における不正リスク対応基準」があります。
不正リスク対応基準の施行を受けて、金融商品取引法監査適用の会社の会計監査人は企業に対してより懐疑心を高めて監査を実施することとなりました。
最後に、不正リスク対応基準は、金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業および大会社を想定して作成されています。
非上場の会社法監査等には基本的に適用されませんが、重要な不正の発生は会社にとって大きな損失となり、監査意見に影響を及ぼすため不正事例については会社として十分ご留意いただき、不正が発生しないように内部統制を整備・運用することは監査の効率化を通しても会社の利益になるといえます。
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