会計監査制度の歴史を振り返る③~リーマンショック以降の公認会計士監査制度の変遷~
はじめに
最後は、リーマンショックが生じた2008 年以降現在までの出来事について記載します。2008 年以降、我が国に大きな影響を及ぼした事象等を確認しておきます。
<年表>
2008年(平成20年):リーマンショック
2009年(平成21年):監査基準の改訂(継続企業の前提に関する監査手続の改訂)
2010年(平成22年):監査基準の改訂(監査報告基準の改訂等)、エフオーアイの粉飾発覚
2011年(平成23年):東日本大震災、オリンパス事件発覚
2013年(平成25年):不正リスク対応基準の設定、監査基準の改訂(監査役等との連携等)
2014年(平成26年):監査基準の改訂(特別目的や一部の財務表の監査目的並び
に準拠性に関する意見の表明)
2015年(平成27年):東芝の不適切な会計発覚
2016年(平成28年):会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」公表、「会計監査の在り方に関する懇談会」提言公表
2017年(平成29年):「監査法人の組織的運営に関する原則(監査法人のガバナンスコード)」公表
2018年(平成30年):監査基準の改訂(監査上の主要な検討事項の記載)
2019年(平成31年):「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書公表
株式会社東芝事案について
過去の不正会計事案を踏まえ、内部統制監査の導入や不正リスク対応基準の整備等が行われていました。
しかしながら、2015年7月に会社ぐるみで巨額の不適切な会計を行っていた東芝の事案が明らかになりました。
→税引前損益に与える影響(2008年度~2014年度第3四半期
累計)は、1,500億円以上
(不正会計の内容)
A.工事進行基準を利用した不適切な会計処理
→「合理的に見積もられた工事原価総額」を意図的に過少にする。
B.経費計上に係る不適切な会計処理
→発生主義で計上すべき経費を現金主義で計上する等
C.部品取引を利用した不適切な会計処理
→有償支給の未実現利益を控除しない。
D.半導体在庫の評価減に係る不適切な会計処理
→必要な評価減計上を見送る。
(不正会計の発生原因について)
→第三者委員会調査報告書によれば、
・経営トップらの関与を含めた組織的な関与
・当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー
・組織風土
・内部統制が十分に機能しなかった
こと等が挙げられています。
監査制度への影響について
東芝の不正会計事案の手法は、工事進行基準の操作、経費の遅延計上等、オーソドックスで古典的な手法と考えられます。
にもかかわらず、なぜ既存の監査制度の枠組みにおいて十分な対応ができなかったのでしょうか。
2015年10月公表の公認会計士制度委員会研究資料第2号
「会社法監査に関する実態調査-不正リスク対応基準の導入を受けて-」をもとにした検討を行います。
「会社法監査に関する実態調査-不正リスク対応基準の導入を受けて-」では、アンケートを行っています。
アンケート結果は、要求事項の増加等が監査時間に影響を与えている一方、監査報告書予定日はほとんど変更がないとの回答でした。
適正な監査原資の確保に向けて適切な対応を行うべきではないか。
「会計監査の在り方に関する懇談会」に基づく考察
2015年10月より金融庁では「在り方懇」が開催されました。
懇談会では次のような発言がありました。
・もう法律や基準の上での規制は飽和状態になっているのではないか
・何か事故があると要求事項がどんどん積み上げられ、手続的に増えているのが実態
問題の解決には会計士の能力等、従来より設定されている基準を如何に実行していくか、という観点での議論が行われました。
2016年「在り方懇」の提言として以下の5つの目的と13の施策が掲げられています。
・監査法人のマネジメントの強化
・会計監査に関する情報の株主等への提供の充実
・企業不正を見抜く力の向上
・「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック
・高品質な会計監査を実施するための環境の整備
会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」に基づく考察
2016年1月公表されています。
以下の点について特に留意し、監査業務に取り組むことを強く要請しています。
①リスク・アプローチに基づく監査
②職業的専門家としての懐疑心
③経営者による内部統制を無効化するリスク
④会計上の見積りの監査
⑤監査チーム内の情報共有
⑥ 審査
⑦ 監査時間・期間の確保
監査法人のガバナンス・コードに基づく考察
金融庁は 2017 年 3 月に「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)を公表しています。
監査法人のガバナンス・コードにおける 5つの原則は以下の通りです。
①会計監査の品質を組織として持続的に向上させるべき
②組織的な運営を実現するため、実効的に経営機能を発揮すべき
③経営から独立した立場で経営機能の実効性を監督・評価する機能
④ 組織的な運営を実効的に行うための業務体制を整備すべき
⑤十分な透明性を確保すべき
おわりに
「在り方懇」の提言を受け、2018年11月より「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」が開催され、2019年1月に提言が公表されました。
「充実懇」の提言
・無限定適正意見以外の意見の場合の根拠
・「守秘義務」が過度に強調されているのではないか
(最後に)「在り方懇」の提言のうち特に「企業不正を見抜く力の向上」に努めていくことが求められています。
以上、コラム3回にわたり公認会計士監査制度の歴史を振り返りました。
監査制度の歴史は、上場会社を中心とした粉飾決算とそれに対応して公認会計士の監査制度の充実・強化が行われてきました。
では、当事務所のような個人の公認会計士事務所に何の関係があるのか?と思われる方もいらっしゃるかと思います。大いに関係があるのです。
公認会計士の監査制度の変更は、大手監査法人のみならず、当事務所のように「会社法(単独)の監査」「学校法人の監査」「医療法人の監査」等すべての監査の手法に影響を与えています。
ただし、上場会社の監査を行う監査事務所は、公認会計士協会の品質管理レビューや金融庁の検査を定期的に受けることが義務付けられています。
そのため、レビューや検査に対応するための形式的な見せる書類作りに監査時間の多くを費やしてしまいます。
当事務所も個人の公認会計士事務所として、数年前まで、上場会社監査登録事務所でしたので、レビューや検査を受けてきました。その時の経験は、とにかく見せるための調書を作ることでした。因みに、当事務所は上場会社を行う監査事務所として特に問題となる指摘は受けておりません。
現在は?上場会社監査登録事務所ではないため、見せるための調書作りのような時間は必要ありません。そのため、上場会社監査登録事務所と同じ監査を行っても監査時間をより効率的に行うことが可能です(自分にわかる調書を作ればよい)。
これはすなわち、品質は落とさずに監査を効率的に行い、監査費用を抑えることが可能となったということです。
中規模以下の「会社法(単独)監査」「学校法人監査」「医療法人監査」すべての「労働組合の監査」等のお問い合わせ・お見積りは是非、横田公認会計士事務所までご連絡ください。当事務所で対応可能な監査かどうかのご相談も気軽にご連絡ください。
中規模以下の判断は、売上では業種により規模感が異なりますので、従業員300人未満の会社と思ってください。