中小監査法人の組織内部の実態とは?!会計監査人を選ぶ際の参考に!

監査現場9 2

はじめに

過去1年間(~2022年6月末まで)で上場企業の会計監査人の異動は過去最高となっており、228件となっています。

参照)CPAAOB公表 監査人の異動に伴う監査報酬の減額は228件中123件に

このうち、中小監査事務所(主に中小監査法人)は109件の純増となっています。

上場企業全体の中小監査事務所のシェアは初めて20%を超えました。

中小監査事務所(以下中小監査法人)がこれほどまでに会計監査人に選ばれる理由は、主に大手監査法人の監査報酬の値上げに対して、コロナにより業績が良くない企業が監査報酬を維持または値下げするためだと言っても過言ではないでしょう。

そこで、中小監査法人を選ぶ会社等のために、その実態(内部管理体制等)について今回のブログではご紹介したいと思います。

筆者は、中小監査法人での常勤・非常勤での実務経験が5法人以上あり、それぞれの事務所に共通の経営内部の事情についてかなりの程度把握していると自負しています。

中小監査法人とは

参照)自社に適した公認会計士または監査法人を選ぶコツ

上記ブログで規模別の監査事務所を分類していますが、大手監査法人(四法人)及び準大手監査法人(五法人)を除く監査法人です。

このブログでその実態を述べる監査法人は中小監査法人の中でも主に上場会社の監査数が一桁以下の監査法人を主として中小監査法人と呼ぶことにします。

2022年に入り、金融庁の中小監査法人への行政処分がすでに3法人へ

中小監査法人の監査シェアが増加する一方、金融庁の公認会計士監査審査会(以下CPAAOB)の検査の結果、過去にないペースで監査法人の処分が増加しています。

処分理由を抜粋して列挙すると以下の通りです。あまりに処分に対する理由が多数ですべてをご紹介できる状況ではないため、ご興味のある方は直接金融庁の処分理由をご覧ください。

参考)監査法人の処分について:金融庁 (fsa.go.jp)

A監査法人)

・法人代表者及び品質管理担当責任者を含む各社員においては、各人の個人事務所等における非監査業務への従事割合が高く、監査法人における監査の品質の維持・向上に向けた意識が希薄なものとなっている

・法人代表者及び品質管理担当責任者は、監査品質の改善に向けてリーダーシップを発揮していないなど、品質管理のシステムを有効に機能させる態勢を構築する意識が欠如している。

・監査法人の各社員は、自らが関与していない個別監査業務における品質の改善状況を監視する必要性を認識していないなど、法人の業務運営に対する社員としての自覚に欠けている。

・監査法人においては、社員同士が互いに牽制し、監査品質の維持・向上を図る組織風土が醸成されておらず、組織的監査を実施できる態勢となっていない。

・法人代表者及び品質管理担当責任者は、現行の監査の基準に対する理解や、基準が求めている品質管理及び監査手続の水準に対する理解が、自らを含む監査実施者に不足していることを十分に認識していない。

・監査法人は、各社員の合意に基づいて品質管理活動を含む業務運営を行う方針としているにもかかわらず、各社員は、監査法人における現状の品質管理態勢を批判的に検討していないなど、監査品質の維持・向上に貢献していない。

・経営者の主張を批判的に検討していないなど、職業的懐疑心が不足している。

・継続企業の前提に関する検討が不十分、固定資産の減損に係る会計上の見積りの検討が不十分、工事進行基準に対するリスク対応手続が不十分、重要な勘定残高に対するリスク対応手続が不十分、監査チームメンバーの独立性の確認が不十分、重要性の基準値に関する検討が不十分、棚卸立会に係る手続が不十分、内部統制や財務報告に関連する情報システムの理解が不十分、監査役等とのコミュニケーションが不十分など、広範かつ多数の不備が認められる。

B監査法人)

・法人代表者は、法人運営について、法人代表者と審査担当責任者の代表社員2名及び品質管理責任者で重要な審議事項等を検討すれば、他の社員との間で明示的に当該審議事項等の情報を共有する必要はないと考えており、各社員が協働して監査品質の維持・向上を図るという組織風土の醸成に努めておらず、組織的監査が実施できる態勢を構築していない。

・法人代表者は、業容が急速に拡大する中、業務執行社員における十分な監査業務時間の確保が困難になっている状況や、監査補助者全体のスキルの底上げが必要となっている状況において、監査事務所に求められる品質管理の水準を十分に理解していないほか、品質管理態勢を迅速に改善する必要性を認識していない。

・業務執行社員及び監査補助者は、被監査会社及び被監査会社を取り巻く環境に関する変化が生じているにもかかわらず、リスク評価やリスク対応手続を毎期見直すという意識が不足している。

・業務執行社員は、法人全体の監査業務を少人数で分担しており、各々が担当する個別監査業務に割ける時間が限定的であることから、監査補助者が実施した監査手続が適切かどうかを十分に検討できていないなど、監査補助者の実施する監査手続に対する十分かつ適切な指示・監督及び監査調書の深度ある査閲を行う意識が不足している。

・重要性の基準値の検討、収益認識における不正リスクへの対応の検討、仕訳テストの検討、債権の評価に係る会計上の見積りに関する検討、企業作成情報の信頼性の検討、注記の検討、内部統制の評価範囲の検討、グループ監査における監査証拠の十分性及び適切性の検討、関連当事者取引の検討、初年度監査における期首残高の検討及び監査上の主要な検討事項の監査報告書への記載の検討が不十分、さらに、売上高等に係る実証手続、内部統制の運用評価手続、内部統制の不備の評価、情報システムに係る全般統制の評価及び未修正の虚偽表示の評価が不十分など、広範かつ多数の不備が認められる。

C監査法人)

・統括代表社員は、適切な業務管理や監査品質の維持・向上に資する品質 管理に係る最高経営責任者としての責任を負っているにもかかわらず、職業的専門家としての誠実性・信用保持の重要性に対する認識が不足しており、職業倫理の遵守を重視する 組織風土の醸成に向けて、リーダーシップを発揮していない。

・統括代表社員及び品質管理担当責任者においては、業務運営に係る重要な事項に ついて、特定の社員のみで議論すれば足りるものと考えており、内部規程等を適切に整備 し、当該規程等に従って、品質管理のシステムを運用する意識が欠けている。

・監査法人の各社員は、当監査法人所属の社員・職員は豊富な実務経験に基づく十分な能力を有しており、これらの者が実施する監査業務の品質には特段の問題がない ものと思い込んでいる。

・監査法人の各社員は、業務執行社員を含む監査実施者において、現行の品質管理の基準や監査の基準が求める水準の理解が不足する者が存在することを認識できていないほか、他の社員・職員が実施する監査業務について、審査や定期的な検証等を通じて、監査品質の維持・向上を図る意識が不足している。

・全ての個別監査業務において、業務執行社員及び監査補助者に監査の基準に対する理解が不足している状況及び職業的懐疑心が不足している状況が確認され、それらに起因する重要な不備を含めて広範かつ多数の不備が認められている。

・業務執行社員及び監査補助者は、監査の基準や、現行の監査の基準が求める手続の水準 の理解が不足している。特に、収益認識に関する不正リスクの評価及び対応に係る手続に ついての理解が不足している。

・業務執行社員及び監査補助者は、経営者の主張を批判的に検討していないなど、 職業的懐疑心が不足している。

・業務執行社員は、監査補助者を過度に信頼していたことから、監査補助者が適切に業務を実施していると思い込み、監査補助者に対する適切な指示・監督及び監査調 書の深度ある査閲を実施しなかった。

・不正リスクの評価が不適切並びに仕訳テストの検討、繰延税金資産の回収 可能性の検討、事業構造改善引当金の検討、将来計画の見積りの検討、取得原価の再配分 の検討、資産除去債務の検討、セグメント情報に関する注記の検討、内部監査人の利用に 係る検討、内部統制監査の評価範囲の検討及び監査上の主要な検討事項の記載に係る検討 が不十分、さらに、売上高の分析的実証手続、売上原価の実証手続、売掛金の実証手続、 棚卸資産の実証手続、特定項目抽出による試査による実証手続、監査サンプリング及びグ ループ監査に係る監査手続が不十分、くわえて、子会社株式の評価、のれんの評価、構成 単位の固定資産の減損、決算・財務報告プロセスの検証、取締役会等の議事録の閲覧、監 査役等とのコミュニケーション、個人情報の取扱い及び独立性の確認が不十分であるなど、 広範かつ多数の不備が認められる。

上記処分3法人以外の中小監査法人の実態

A監査法人への最初の金融庁の処分理由にある、各社員(会社でいう役員)が各人の個人事務所への従事割合が高く、監査法人の品質管理への関心が希薄であるという状況は多かれ少なかれ、中小監査法人共通の事情であることは間違いありません。

確かに、筆者が関与した中小監査法人でも各社員が個人事務所を持たず、監査品質を重視している中小監査法人もありました。しかし、その監査法人では公認会計士である職員の離職率が高く、いまだに常に求人をしている状況です。

なぜでしょうか?

その答えは大手監査法人のように会社員として公認会計士が仕事に従事するなら、わざわざ中小監査法人を選ぶ必要はなく、大手・準大手監査法人に就職する方が福利厚生面等総合的にメリットがあるからです。

その他の金融庁の処分理由も中小監査法人全体に共通の事項です。

ただし、それが行き過ぎているため上記の三つの監査法人は処分されたわけです。

一方、中小監査法人への監査人の異動が多くなっている現状、今後の金融庁の検査で同様の処分が増えるのは間違いありません。

上記3法人と同様の中小監査法人はまだまだたくさんあります。

おわりに

中小監査法人は民間の会社と違い、公認会計士の資格を持った者が5名以上集まって設立される法人です。

元々、それぞれ個人事務所を持っている公認会計士がほとんどであり、各人の事務所の経営を前提に行っている公認会計士が集まって法人化していることをご理解ください。

金融庁に処分される中小監査法人は上場会社の監査をしている中小監査法人です。筆者の個人事務所のように、会社法や学校法人、医療法人など非上場の会社等のみ監査を行う中小監査法人もたくさんあります。

そのような中小監査法人は、上記の処分3法人に比べて更に各人の個人事務所の経営に従事する割合が高く、監査法人としての品質管理に対する意識は希薄となることは自然なことと考えてください。金融庁の検査がないわけですから、各社員は名ばかりで、それぞれ各社員が監査法人の名を借りて、個人事務所が監査を行うのと何ら違いはありません。

結論として、非上場会社のみ監査している中小監査法人はほぼ90%組織としての品質管理はないと思ってください。

非上場会社の監査で規模がそれほど大きくない会社等の場合は、信頼できる個人の公認会計士事務所または信頼できる中小監査法人の会社を担当する社員の公認会計士を基準に会計監査人を選ぶべきといえます。

※中小監査法人に対するブログ中の見解は筆者の個人的な経験に基づくものであり、すべての中小監査法人に当てはまるものではありません!

以上

横田公認会計士事務所は、非上場の会社法監査、医療法人の会計監査、学校法人の会計監査、労働組合の会計監査など上場会社を除く法定監査・任意監査に特化した監査事務所です。

上場会社を監査している監査法人等と比較し、費用面を抑えて実質的な監査を行うことを基本方針にしています。効率性の高い柔軟な会計監査を行うことが可能です。

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