公認会計士の会計監査!AI導入で不正会計が発覚しやすくなるか!

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はじめに

企業の不正や経済関連の事件が多発している

2016年は上場企業の不正会計や粉飾決算による融資詐欺が多発し、大きな問題になった年です。

実際に、不適切な会計・経理を開示した上場企業は57社で、前年の52社を9.6%も上回っていました。なかでも、東証一部上場の大企業による不正会計の増加がみられました。大企業は、株主、従業員、関連会社や取引先、金融機関など多くの関わりを持ち、その影響は非常に大きいものです。こうした事件が発覚すると、同じ業態や類似の事件が起こりえる企業で臨時にヒアリングや調査が行われたり、より厳密な対応が求められることもありました。そうした潜在的な影響まで含めると、ある特定の企業が起こした不祥事でも、社会全体に与える影響は大きいでしょう。

しかし、報道された事件のように、監査法人が不正な会計処理を発見できず、後になっていくつもの不適切な処理が発覚するケースもあります。しかし、監査によって不正が発見され、是正された場合は、不適切な財務書類が外部に漏れることなく、企業の内部だけで事態が収束することになります。つまり、公認会計士が「監査」という職務をまっとうした場合、それは公認会計士の立場からすればごく当然なのかもしれませんが、さながら「影のヒーロー」のようで、実はものすごくカッコいいことなのではないでしょうか。

監査は公認会計士の独占業務。その社会的な役割と今後

公認会計士の業務は、公認会計士法によって「財務書類の監査」・「財務書類の内容証明」と定められています。これは公認会計士だけが行える業務であり、監査した財務書類の内容が適正であることを独立した第三者として公に証明することができます。

公認会計士の仕事は、監査対象の業務に貢献するだけでなく、監査対象の財務書類の内容を公に証明することによって、第三者に監査対象の判断材料となる情報を提供することにもつながっているのです。

財務書類は、その法人の優良性や健全な経営が行われているかを判断する重要な材料です。投資や融資だけでなく、取引先や就職先を選ぶときなど、あらゆる場面で必要とされる情報です。その際、財務書類が適正で虚偽の内容が含まれていないことが大前提となります。だからこそ、財務書類の信頼性を確保するため、財務書類の内容を証明する「監査」は、公認会計士の独占業務とされているのです。

企業の健全な経営を守り、社会全体に情報を提供する業務でありながら、監査業務の認知は一部の人や業種に限られています。公認会計士の仕事に対しても「数字を扱う」「細かい」といったばくぜんとしたイメージを抱く人が多く、監査の認知度はさらに低いと思います。財務書類に関する監査と内容の証明が、公認会計士にしか認められない業務であると知らない人も少なくないのではないでしょうか。その理由ですが、公認会計士が関わるのは、主に財務書類を第三者に公開する必要がある法人や団体で、しかも財務や経理などの部門以外には接触する機会が少ないこともあり、中小企業や個人でも関わる機会の多い税理士さんとくらべて、なじみが薄いと思われているのでしょう。

しかし、人口減少や高齢化により、中小企業を中心に事業承継や経営統合の事案が増加していくことは予想でき、それに比例して監査業務の需要は今後増加していくと考えられます。

AI導入で監査業務は効率化されるのか

さて、公認会計士が行う監査は「法定監査」と「任意監査」の2種類に分けられます。

法定監査は、所得税法や国税通則法などで規定される調書の提出義務者に対して実施される監査で、この場合の監査対象は主に上場企業などになり、中小企業や個人事業主には、法定監査を受ける義務はありません。法定監査が行われるタイミングは、期末や四半期などの決まった時期や特定の条件下で実施するよう、法律で定められています。そのため、決算が集中する時期(3月決算)には監査業務も集中し、公認会計士にとっては繁忙期となります。

一方の任意監査は、法律による義務ではなく、必要に応じて、任意のタイミングで行われる監査です。その企業との間に利害関係がある、もしくは発生する可能性のある企業や団体、投資家などの求めに応じて行われます。企業提携や事業譲渡の事前調査や融資先としての信頼性の確認など、法律とは関係なく、特定の目的のために独自に行われる監査であるため、実施されるタイミングは決まっていません。

こうした監査で不正が見過ごされてしまうのはなぜでしょうか。監査の限られた時間内に、すべての財務データに目をとおすことは不可能です。そのため、重要性の高い高額の取引や無作為に抽出した取引だけを検証する試査が中心でした。この方法では、監査対象にならない取引に不正があった場合や意図的に隠された不正を発見することは難しくなります。

特に経営者が意図的に粉飾に加担した場合は、内部統制が無効化され、不正リスクが増大します。

ところで、最近では監査にAIを導入する取り組みも始まっています。AIを活用すれば、全財務データを分析することも可能です。勘定科目間の相関の検証だけでなく、財務データと営業や業務などの非財務データの相関から異常点を抽出する監査手法も取り入れられています。もちろん、AIだけで監査ができるわけではありません。AIが異常点として抽出した取引について、その内容や会計処理の経緯を踏まえて、不正であるか否かを判断する必要があります。AIが分析したデータに人間の知見を組み合わせることで、精度の高い監査を効率よく行うことが可能になるのです。

おわりに

いまはまだ、AIは一部の大手監査法人にしか導入されていませんが、技術革新や普及に伴い、現在の会計ソフトと同じように誰もがAIを使用できる時代が来るでしょう。当事務所のような個人事務所でもAIを活用した監査を行うことができるはずです。膨大な検証作業はAIに任せて、監査人はAIが抽出したデータの検証や折衝に注力することで、より内容の濃い監査を行うことができます。また、繁忙期に監査が集中しても残業続きになることがなくなれば、ワークライフバランスも向上すると考えられます。

そうした時代の波のなかで本当に重要なのは、監査業務に臨む公認会計士としての矜持ではないでしょうか。公認会計士は健全な企業経営と経済活動を内側から支える仕事です。監査をビジネスというだけでなく、社会的な影響力を持つ仕事であると自覚し、信念や誇りをもって働ける人こそがAI時代の公認会計士として望ましいと思います。

当事務所もAI時代の公認会計士として、時代に乗り遅れないようアンテナを張って大手監査法人のような杓子定規の監査ではなく、AIを取り入れつつ経営者とのコミュニケーションを密にした監査業務を続けていくつもりです。