社会福祉法人監査及びその背景と効果

社会福祉法人は、経営組織のガバナンスの強化及び事業運営の透明性の向上を行い、地域における公益的な取組を実施する責務を中長期的に果たすため、一定の規模を超える社会福祉法人に関して、外部監査が必須となりました。

具体的には、下記規模要件を超える社会福祉法人(特定社会福祉法人)には、会計監査人が社会福祉法人の機関として設置されることが義務付けられました(社会福祉法第37条)。

会計監査人設置の社会福祉法人は、2017年(平成29年)4月1日開始の会計年度から、会計監査人による監査、社会福祉法人監査の実施が義務付けられています(社会福祉法第45条の19第1項)。

会計監査人の設置が義務付けられる社会福祉法人の事業規模要件

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うために設立される法人であり、多くの場合、社会福祉施設を運営しています。社会福祉施設の中長期的な運営と、高齢化社会における社会福祉事業の重要性から、下記のように、規模要件は順次拡大することが予定されています。

  • 平成29年度、平成30年度は、法人単位のサービス活動収益30億円を超える法人又は負債60億円を超える法人
  • 平成31年度、平成32年度は、法人単位のサービス活動収益20億円を超える法人又は負債40億円を超える法人
  • 平成33年度以降は、法人単位のサービス活動収益10億円を超える法人又は負債20億円を超える法人

【※厚生労働省の事務連絡「社会福祉法人における会計監査人に係る調査と平成31年4月の引き下げ延期について(周知)」(平成30年11月2日)が発出され、平成31年4月から会計監査人の設置基準の引き下げは行わないこととなりました。】 

したがって令和2年7月現在、収益額30億円(あるいは負債額60億円)超の社会福祉法人に会計監査人の設置が法定されています。

 平成30年度(平成31年3月期)には 会計監査人設置法人数 425法人

 内 任意設置法人99法人

将来的には、収益額10億円(あるいは負債額20億円)超に引き下げられる予定

令和3年度には、収益額20億円(あるいは負債額40億円)超に引き下げるか?

収益額10億円になると会計監査人設置法人数は約2,000法人となる

社会福祉法人制度改革

今般の社会福祉法人制度の改革の基本的な視点は、「公益性・非営利性の徹底」「国民に対する説明責任」「地域社会への貢献」です。
福祉ニーズが多様化・複雑化している中で、社会福祉法人は公益性・非営利性を備えた法人としてその役割がますます高まってきています。そこで、「公益性・非営利性の徹底」の視点から組織運営の在り方を見直し、「ガバナンスの強化」を図ります。
また、社会福祉法人は公益性と非営利性を備えた法人として、その運営状況について国民に対しての説明を十分に行う必要があります。そこで、「国民に対する説明責任」の視点から、運営の透明性の確保、適正かつ公正な支出管理及び内部留保の明確化等の「積極的な情報開示」が求められます。
「地域社会への貢献」という視点からは、多様化・複雑化する福祉ニーズに応えるため、社会福祉法人には、営利企業等では実施することが難しく、市場で安定的・継続的に供給されることが望めないサービスを供給するなど、「多様な福祉ニーズへの対応」が求められます。

 各対策の具体的な内容は以下の通りです。

1 ガバナンス強化

内部管理の強化
理事・理事長・理事会・評議員・評議員会及び監事の権限・義務・責任等の明確化を図り、経営組織体制を見直すことにより、ガバナンスの強化を図ります。
具体的には、法令上理事長・理事会の規定がない、評議員会の設置は法令上任意とされている、などの状況に鑑み、以下のような経営組織体制の見直しがなされました。
• 理事・理事長・理事会の位置付け・権限・義務・責任を明確化、理事の定数及び構成を明確化
• 評議員・評議員会の位置付け・権限・義務・責任の明確化、評議員の定数等、選任及び構成を明確化
• 監事の位置付け・権限・義務・責任の明確化、監事の定数等、選任及び構成を明確化

会計監査人の設置義務化
ガバナンスの強化、財務規律の確立の観点から、一定規模以上の法人に対して、会計監査人による監査を法律上義務付けます。会計監査人の設置が義務付けられる社会福祉法人の具体的な範囲は以下の通りです。
• 収益(事業活動計算書におけるサービス活動収益)が10億円以上の法人(当初は10億円以上の法人とし、段階的に対象範囲を拡大)
• 負債(貸借対照表における負債)が20億円以上の法人
また、会計監査人の設置の義務付けの対象とならない法人に対する対応は以下の通りです。
• 公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人による財務会計に係る体制整備状況の点検等
• 監事への公認会計士又は税理士の登用

会計監査人監査と行政の関与との関係
ガバナンス強化の状況や会計監査人監査・外部監査の導入状況による法人の自律性を前提とした行政の関与が行われます。具体的には、以下の要件を満たす社会福祉法人に対しては、定期監査の実施周期の延長や監査項目の重点化等を行う仕組みを導入することが検討されました。
【要件①】 社会福祉法人改革に即したガバナンスや運営の透明性の確保、財務規律の確立等に適切に対応している法人
【要件②】 財務諸表や現況報告書のほか、会計監査人が作成する監査報告書及び「運営協議会」の議事録を提出して、所轄庁による審査の結果、適切な組織運営・会計処理の実施や地域等の意見を踏まえた法人運営が行われている法人

2 積極的な情報開示

運営の透明性の確保
社会福祉法人はその「高い公益性と非営利性」から、その運営状況について国民に対する説明責任を十分に果たす必要があります。そのため、開示対象書類を追加するとともに、それらの情報を国民が入手しやすくするためにインターネットを活用することが求められます。具体的には、
• 定款、事業計画書、役員報酬基準を新たに閲覧対象とするとともに、閲覧請求者を国民一般に拡大する
• 定款、貸借対照表、収支計算書、役員報酬基準を公表対象とすることを法令上位置付ける
• 現況報告書について、役員区分ごとの報酬総額を追加した上で、閲覧・公表の対象とすることを法令上明記する

適正かつ公正な支出管理
社会福祉法人はその「高い公益性と非営利性」から、財務規律に関する社会的要請が強く、特に役員報酬や役員の親族等の関係者との取引などについて適正かつ公正な支出管理をすることが求められます。具体的には以下の事項に取り組むことが求められます。
• 適正な役員報酬を担保するための役員報酬基準の策定と公表等
• 関係者への特別の利益供与の禁止と関連当事者との取引内容の公表
• 会計監査人の設置を含む外部監査の活用
これらの情報については、会計監査人監査等によりその信頼性を担保させることにより、より信頼性の高い情報を開示することにつながります。

内部留保の明確化及び福祉サービスへの再投下
国民に対する説明責任という観点から、昨今問題になっているいわゆる内部留保の金額を明確にする必要があります。その上で、全ての財産額から事業継続に必要な最低限の財産額を控除した財産がある場合には、その財産を福祉サービスに再投下することが求められます。
この内部留保の金額を明確に国民に対して示す上でも、会計監査人監査等がよりその信頼性を担保することになります。

3 多様な福祉ニーズへの対応

地域における公益的な取組の責務
福祉ニーズが多様化・複雑化している中で、公益性の高い社会福祉法人の役割は非常に重要になってきています。社会福祉法人には、日常生活・社会生活上の支援を必要とする者に対して無料又は低額の料金により福祉サービスを提供することを社会福祉法人の責務として位置付けることが必要とされています。

社会福祉法人制度改革における会計監査人監査

  社会福祉法人制度改革では、上記の通り「公益性・非営利性の徹底」「国民に対する説明責任」「地域社会への貢献」を基本的な視点として様々な見直しがなされています。その中で、「公益性・非営利性の徹底」「国民に対する説明責任」には当然に適切に対応した上で、各社会福祉法人が「地域社会への貢献」でどのように応えるかが非常に重要になります。

そこでの取り組みによって、社会福祉法人にしかできない地域に根付いた福祉サービスの提供が可能となるからです。しかし、その大前提として「公益性・非営利性の徹底」「国民に対する説明責任」は当然に適切に対応すべきものであると言え、さらに、それらの対応への信頼性を担保するものが会計監査人監査となります。会計監査人監査は、今般の社会福祉法人制度改革の根底をなすものであると言えます。

社会福祉法人の会計監査の導入効果について

平成29年度から一定規模(収益総額30億円、負債総額60億円)を超える社会福祉法人の会計監査が法定で義務付けられており、平成30年度、平成31年度の会計監査も終えています

 この間、会計監査を受けた社会福祉法人の関係者は会計監査の導入をどのように受け止めているのでしょうか。会計監査を受けるためには、社会福祉法人の運営や経理事務などについて、一定のガバナンス(法人運営における統制機能)や内部統制(業務が適切に実施される組織体制や仕組み)が必要です。

 これまで所轄庁の指導監査(概ね1日程度で実施)を受けることはあっても、年間で数十日を超える監査を受けたことはないと思います。また、これまでとは違って、少なからず監査費用の負担も発生します。

 社会福祉法人にとって、法定監査について法律の義務だから仕方なく受けるのか、それとも義務として受け止めながら、これを機会に法人運営に活用しようとするのかにより、随分受け止め方は異なると思います。

 この点、みずほ情報総研株式会社が厚生労働省の社会福祉推進事業の補助金を使用して、平成 31 年3 月「平成30年度社会福祉法人に設置される会計監査人の導入効果等に関する調査研究事業」を公表されています。https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/konkyu2019_01.pdf

 この報告書は、「社会福祉法人会計監査人設置モデル事業」を実施している社会福祉法人を対象にアンケート調査を実施しています。

 この報告書によると、会計監査人の指導的機能として、会計監査の過程でいろいろな会計指導を行い、法人の経理担当者の実務能力向上を実感されています。また、専門家のお墨付きによる法人経営の信頼性向上、適正な会計処理を通じた法人運営の透明性確保、内部統制等経営基盤の整備といった効果もあげられています。

 一方、監査報酬の負担感や会計監査導入による法人の事務負担感を感じている社会福祉法人もいますが、概ね会計監査導入のメリットを享受している状況が見て取れます。

 この辺は、最初に述べたように、会計監査を受ける社会福祉法人の姿勢によるところが大きいように思います。法律等により会計監査を受ける義務があるならば、それをできるだけ法人運営に活用しようという対応をすれば、費用対効果も後からついてくるのではないでしょうか。

 当事務所も会計監査を通じて、そのような社会福祉法人のお役に立つことができるよう、ご支援したいと考えています。