公認会計士・税理士から視た現状の税務調査及び会計監査についても一言
はじめに
現状のコロナ禍においての税務調査は、当面、納税者の状況を個々に考慮した上で実施する方針であったようですが、実態として、真に必要な事案を除いて新規の税務調査には抑制的になっていた面があったようです。
ただし、7月から国税庁の新たな事務年度が始まって3か月が経過する現状、新型コロナウイルスの感染拡大防止策を徹底した上で、10月以降には徐々に新規の税務調査を進めていく方向で検討されているようです。感染拡大防止策をとりながら、社会活動のレベルが引き上げられていく中、税務調査も次の段階へと進んでいくようです。
例年の税務調査の連絡が来ていない現状
国税庁では、毎年7月に新たな事務年度が始まります。人事異動があり新体制となり、全国一斉的に納税者に新規調査の連絡が来る時期でもあるのです。
しかし、今年は税務署から新規調査の連絡がないという会計監査先や税務の顧問先からの声をよく聞きます。新型コロナウイルス感染症の影響で、特別に必要な事案を除いて、新事務年度を迎えた以降も、当面は様子見として新規調査を先送りしているとのことです。
税務調査に対応困難なら調査日時を調整
ただし、新事務年度が始まって3か月が過ぎる中、漸く法人税、消費税、所得税、想像税等の税目を問わず、調査を進めていくことになるようです。
今年の事務年度においては、消費税還付事案や富裕層事案など、これまでも特に力を入れてきた重点事案などに、より的確に調査を行っていくことになるでしょう。
実地の調査だけでなく、電話等による非対面の簡易な接触や、机上調査にも力を入れていくことでしょう。
一方で、例えば広範囲の地域に及び調査案件などについては、新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止の観点からも、着手しにくい面も大いに考えられます。
あくまで、企業のテレワークの状況なども含めて納税者の個々の状況を勘案しながら調査に着手するスタンスは変わらないでしょう。
このため、新型コロナウィルス感染症の影響でやむなく納税者の調査対応が困難となる場合には、調査日時を調整して先送りすることも十分考えられます。
おわりに
税務調査を行う上で、特に重要と考えられるのが、マスクの着用等の感染拡大防止策でしょう。この点は、当個人公認会計士事務所の会計監査においても同様となっています。
納税者や監査先・顧問先に安心して税務調査や会計監査・税務代理に協力してもらえるように、感染拡大防止策の徹底、及びその周知にも積極的に取り組んでいくことは政務調査のみならず、横田公認会計士事務所にも共通の課題です。
また、税務調査に向かう人員についても必要最小限に抑えることになるでしょう。
この点も会計監査においては特に共通しています。必要最小限のベテラン監査人で監査先での監査を行い、必要書類は遠隔で事務所において、メールでやり取りするようにしています。
安心して当横田公認会計士事務所へ会計監査のご依頼やご相談をください。
監査法人のように、大人数が入れ代わり立ち代わり監査に来るような状況とは違い当事務所では、ベテラン会計士5名ほどのメンバーの中から必要最低限のメンバーで監査を行います。
デジタル時代の公認会計士会計監査の監査証拠
はじめに
近年、ビジネスの複雑化がさらに増す一方で、テクノロジーの進化も日進月歩で、AI、ロボティクス、ブロックチェーン等、新技術には枚挙に暇がありません。
会計監査人の監査証拠
このような現状、会計監査人が集める監査証拠はどのようにアップデートしていくのでしょうか。この点、国際監査・保証審議会(IAASB)では、国際監査基準(ISA)500「監査証拠」の改定を計画しているようです。
9月3日に、IAASB内の監査証拠ワーキンググループがISA500に関する「プロジェクト・アップデート」を公表し、改定の方向性やスケジュール案を示しました。IAASBでは、2016年末から2020年初頭にかけて関係者から意見聴取などを行ってきたようです。6月の会議での議論を経て、一通りの下準備が完了しました。12月の会議での承認を経て、本格的な改定作業に着手する予定を示しています。
現時点では示されている改定の方向性は
① 情報の性質や情報源について等、監査人が用いる情報の変化に対応する
② テクノロジーの進化を反映させて、原則に基づいた基準の現代化や支援をする
③ 監査証拠として用いる情報について判断し、十分に適用可能な監査証拠が入手できたかを評価する際の職業的懐疑心の維持を促進する
上記3点が確認されているようです。
これらについて議論し、2021年12月に公開草案を公表したあと、2022年6月から2023年2月にかけて寄せられたコメントを検討し、2023年3月に改定を終了させる見込みのようです。
おわりに
デジタル時代の監査証拠がどのようなものになるのか?改定まで2年半あります。個人の公認会計士事務所として今後の会計監査に対応できるようデジタル化に対応していきたいと感じている今日この頃です。
会計監査制度の歴史を振り返る③~リーマンショック以降の公認会計士監査制度の変遷~
はじめに
最後は、リーマンショックが生じた2008 年以降現在までの出来事について記載します。2008 年以降、我が国に大きな影響を及ぼした事象等を確認しておきます。
<年表>
2008年(平成20年):リーマンショック
2009年(平成21年):監査基準の改訂(継続企業の前提に関する監査手続の改訂)
2010年(平成22年):監査基準の改訂(監査報告基準の改訂等)、エフオーアイの粉飾発覚
2011年(平成23年):東日本大震災、オリンパス事件発覚
2013年(平成25年):不正リスク対応基準の設定、監査基準の改訂(監査役等との連携等)
2014年(平成26年):監査基準の改訂(特別目的や一部の財務表の監査目的並び
に準拠性に関する意見の表明)
2015年(平成27年):東芝の不適切な会計発覚
2016年(平成28年):会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」公表、「会計監査の在り方に関する懇談会」提言公表
2017年(平成29年):「監査法人の組織的運営に関する原則(監査法人のガバナンスコード)」公表
2018年(平成30年):監査基準の改訂(監査上の主要な検討事項の記載)
2019年(平成31年):「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書公表
株式会社東芝事案について
過去の不正会計事案を踏まえ、内部統制監査の導入や不正リスク対応基準の整備等が行われていました。
しかしながら、2015年7月に会社ぐるみで巨額の不適切な会計を行っていた東芝の事案が明らかになりました。
→税引前損益に与える影響(2008年度~2014年度第3四半期
累計)は、1,500億円以上
(不正会計の内容)
A.工事進行基準を利用した不適切な会計処理
→「合理的に見積もられた工事原価総額」を意図的に過少にする。
B.経費計上に係る不適切な会計処理
→発生主義で計上すべき経費を現金主義で計上する等
C.部品取引を利用した不適切な会計処理
→有償支給の未実現利益を控除しない。
D.半導体在庫の評価減に係る不適切な会計処理
→必要な評価減計上を見送る。
(不正会計の発生原因について)
→第三者委員会調査報告書によれば、
・経営トップらの関与を含めた組織的な関与
・当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー
・組織風土
・内部統制が十分に機能しなかった
こと等が挙げられています。
監査制度への影響について
東芝の不正会計事案の手法は、工事進行基準の操作、経費の遅延計上等、オーソドックスで古典的な手法と考えられます。
にもかかわらず、なぜ既存の監査制度の枠組みにおいて十分な対応ができなかったのでしょうか。
2015年10月公表の公認会計士制度委員会研究資料第2号
「会社法監査に関する実態調査-不正リスク対応基準の導入を受けて-」をもとにした検討を行います。
「会社法監査に関する実態調査-不正リスク対応基準の導入を受けて-」では、アンケートを行っています。
アンケート結果は、要求事項の増加等が監査時間に影響を与えている一方、監査報告書予定日はほとんど変更がないとの回答でした。
適正な監査原資の確保に向けて適切な対応を行うべきではないか。
「会計監査の在り方に関する懇談会」に基づく考察
2015年10月より金融庁では「在り方懇」が開催されました。
懇談会では次のような発言がありました。
・もう法律や基準の上での規制は飽和状態になっているのではないか
・何か事故があると要求事項がどんどん積み上げられ、手続的に増えているのが実態
問題の解決には会計士の能力等、従来より設定されている基準を如何に実行していくか、という観点での議論が行われました。
2016年「在り方懇」の提言として以下の5つの目的と13の施策が掲げられています。
・監査法人のマネジメントの強化
・会計監査に関する情報の株主等への提供の充実
・企業不正を見抜く力の向上
・「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック
・高品質な会計監査を実施するための環境の整備
会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」に基づく考察
2016年1月公表されています。
以下の点について特に留意し、監査業務に取り組むことを強く要請しています。
①リスク・アプローチに基づく監査
②職業的専門家としての懐疑心
③経営者による内部統制を無効化するリスク
④会計上の見積りの監査
⑤監査チーム内の情報共有
⑥ 審査
⑦ 監査時間・期間の確保
監査法人のガバナンス・コードに基づく考察
金融庁は 2017 年 3 月に「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)を公表しています。
監査法人のガバナンス・コードにおける 5つの原則は以下の通りです。
①会計監査の品質を組織として持続的に向上させるべき
②組織的な運営を実現するため、実効的に経営機能を発揮すべき
③経営から独立した立場で経営機能の実効性を監督・評価する機能
④ 組織的な運営を実効的に行うための業務体制を整備すべき
⑤十分な透明性を確保すべき
おわりに
「在り方懇」の提言を受け、2018年11月より「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」が開催され、2019年1月に提言が公表されました。
「充実懇」の提言
・無限定適正意見以外の意見の場合の根拠
・「守秘義務」が過度に強調されているのではないか
(最後に)「在り方懇」の提言のうち特に「企業不正を見抜く力の向上」に努めていくことが求められています。
以上、コラム3回にわたり公認会計士監査制度の歴史を振り返りました。
監査制度の歴史は、上場会社を中心とした粉飾決算とそれに対応して公認会計士の監査制度の充実・強化が行われてきました。
では、当事務所のような個人の公認会計士事務所に何の関係があるのか?と思われる方もいらっしゃるかと思います。大いに関係があるのです。
公認会計士の監査制度の変更は、大手監査法人のみならず、当事務所のように「会社法(単独)の監査」「学校法人の監査」「医療法人の監査」等すべての監査の手法に影響を与えています。
ただし、上場会社の監査を行う監査事務所は、公認会計士協会の品質管理レビューや金融庁の検査を定期的に受けることが義務付けられています。
そのため、レビューや検査に対応するための形式的な見せる書類作りに監査時間の多くを費やしてしまいます。
当事務所も個人の公認会計士事務所として、数年前まで、上場会社監査登録事務所でしたので、レビューや検査を受けてきました。その時の経験は、とにかく見せるための調書を作ることでした。因みに、当事務所は上場会社を行う監査事務所として特に問題となる指摘は受けておりません。
現在は?上場会社監査登録事務所ではないため、見せるための調書作りのような時間は必要ありません。そのため、上場会社監査登録事務所と同じ監査を行っても監査時間をより効率的に行うことが可能です(自分にわかる調書を作ればよい)。
これはすなわち、品質は落とさずに監査を効率的に行い、監査費用を抑えることが可能となったということです。
中規模以下の「会社法(単独)監査」「学校法人監査」「医療法人監査」すべての「労働組合の監査」等のお問い合わせ・お見積りは是非、横田公認会計士事務所までご連絡ください。当事務所で対応可能な監査かどうかのご相談も気軽にご連絡ください。
中規模以下の判断は、売上では業種により規模感が異なりますので、従業員300人未満の会社と思ってください。
会計監査制度の歴史を振り返る②~バブル経済の崩壊と公認会計士監査制度の変革~
はじめに
今回は、会計監査制度の改革期である1989年~2007年を振り返ります。
この時代は、バブル崩壊後の急激な景気後退、世界的な景況悪化などの要因で不況が長期化しました。
多数の企業倒産や金融機関を筆頭とした企業の統廃合などが相次ぎます。
証取法上のディスクロージャーをめぐり、不適切な事例が相次ぎ、その結果監査基準等の改訂を大幅に行った時代です。
<年表>
1989年(平成元年):監査実施準則改訂(相対的に危険性の高い財務諸表項目に係る監査手続を充実強化)
1991年(平成3年):監査基準、監査実施準則、監査報告準則改訂(リスクアプローチ導入)
1997年(平成9年):ヤオハン倒産、北海道拓殖銀行経営破綻、山一證券自主廃業
1998年(平成10年):中間監査基準設定、三田工業倒産、日本長期信用銀行経営破綻、日本債券信用銀行経営破綻
2000年(平成12年):そごう経営破綻
2002年(平成14年):監査基準改訂(監査の目的を明確化)
2003年(平成15年):公認会計士法改正、足利銀行経営破綻
2004年(平成16年):カネボウ事件発生、西武鉄道事件
2005年(平成17年):会社法成立、監査基準及び中間監査基準改訂、監査に関する品質管理基準設定、カネボウ2,000億円の粉飾公表
2006年(平成18年):金融商品取引法成立、中央青山監査法人業務停止処分、ライブドア事件、ミサワホーム九州事件
2007年(平成19年):公認会計士法改正(監査法人の品質管理強化等)
1989年から2003年までの概要
監査第一委員会報告第50号「相対的に危険性の高い財務諸表項目に係る監査手続の充実強化について」(1988年10月)
→公認会計士監査は不正の摘発を第一の目的とするものではないとしつつも、「役職者による財産上の不正行為が内部統制組織の枠外で行われる可能性が高いことや、証憑そのものが改ざんされる場合が多いこと等を照らし・・・次に掲げる項目について、原則として確認等を実施する・・・」
→預金、手形債権(他所保管分)、貸付金、有価証券(他所保管分)、
棚卸資産(倉庫業者等保管分について確認または立会を行う)、借入金、偶発債務
監査実施準則の改訂(1989年5月)
→相対的に危険性の高い財務諸表項目に係る監査手続を強化
監査基準、監査実施準則及び監査報告準則の大幅改訂(1991年)
→リスク・アプローチの考え方を採用
→新たな内部統制概念の導入
→特記事項の記載
→経営者確認書の入手義務付け
→個別具体的な監査手続の削除
→2002年に再び監査基準は大改訂されます。
2004年から2007年までに改訂された制度とその概要
(1)2005年監査基準の改訂
・事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチの導入
→経営者関与の虚偽表示リスクが増加しつつある。
→企業及び企業環境の理解から重要な虚偽表示をもたらすリスクを検討する。
・重要な虚偽表示リスクの評価
→固有リスクと統制リスクを結合し、「重要な虚偽表示リスク」として評価
・財務諸表全体及び財務諸表項目の2つのレベルでの評価
→財務諸表全体レベルに重要な虚偽表示リスクが認められた場合、補助者の増加等の適切な対応を行う。
おわりに
平成前半では、巨額の粉飾決算が公表されるとともに監査責任者の逮捕や監査法人の事実上の解体が行われるなど、財務諸表監査の社会的信頼に大きな影響を与える事象が発生し、信頼性回復のため、監査人の独立性、監査法人の品質管理、監査法人等に対する監督・責任の在り方といった点について見直しが行われました。
以降、監査報告書における意見表明が正しかったかどうかといった点に加えて、意見形成のための適切なプロセスの実施、及びそのための組織体制等が客観的に確保されているかどうかといった点がより重視されることになりました。
今から振り返ると、我々公認会計士にとっては、激動の時代でした。
会社法監査(中規模以下の会社)、学校法人の監査、労働組合の監査など上場会社のように必ずしも監査法人の監査が必要ではない規模だと思われる組織の会計監査人選任担当の方へ!
→柔軟性や費用対効果を重視して、是非、当事務所まで会計監査のお問い合わせをお待ちしております。
公認会計士の仕事内容(会計監査等)と税理士との違い
はじめに
公認会計士と税理士は、それぞれ会計や税務に関する業務を行うため、同じような業務を行っている(混同している)方が多いかもしれません。
しかし、それぞれに独占業務があり、その仕事内容は大きく違っています。
公認会計業務と税理士業務の相違点
税理士と公認会計士は、それぞれに該当の資格を取得していないと行うことができない独占業務があります。
公認会計士の独占業務は、組織の「監査」です。
企業等が作成した財務諸表等に重大な誤りがないかどうか、公認会計士が第三者の立場から監査し、評価します。
会計監査業務は公認会計士か監査法人のみ行うことができる独占業務です。
当初は、公認会計士が大企業も含めてすべての企業等を監査していましたが、大企業になると、業務も複雑になり、また、過去に上場企業で粉飾決算が多発し、社会問題となったことも有り、個人の公認会計士の監査ではなく、組織的にチームを組んで監査を行うことが求められるようになりました。
その結果として、会計監査業務を専門に行う組織を「監査法人」と呼びます。
少なくとも5人以上の公認会計士が所属し、チームを組んで大企業の監査に取り組みます。現在では、上場企業の監査の70%はBig4と呼ばれる大手の4大監査法人が監査を行っています。
税理士の独占業務は、「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つです。
税務に関する相談を受け、クライアント(納税義務者)からの依頼を受けて税務申告書の作成や提出の代行などが主な業務となっています。
税理士が所属している事務所は、「税理士事務所」「会計事務所」と名乗ることが多いです。
公認会計士は税理士登録することもできますが、税理士が公認会計士として登録することはできません。
ですので、公認会計士・税理士として「会計事務所」を名乗る公認会計士もたくさんいます。
公認会計士は税理士の「上位資格」と思われる方もいらっしゃいますが、公認会計士試験は「租税法」の科目として数問が問われるのみです。
そのため大手監査法人を含めて、監査法人で監査業務のみしか経験していない公認会計士の税務の知識は一般の方より少し上といった程度でしょう。
ですので、税理士登録して税理士業務を行う公認会計士は「会計事務所」や「税理士事務所」に所属して、税務に関する実務を何年か経験する人が多いのが現状です。
公認会計士の仕事内容
税理士の仕事内容については、自営業の方や確定申告を経験した方ならある程度わかっているのではないでしょうか。
ここでは、公認会計士の仕事内容について詳しく記述します。(興味のある方は読み進めてください)
【監査】
企業から学校法人、公益法人など幅広い対象について、独立した立場から監査意見を表明し、財務情報の信頼性を担保します。監査業務には、法定監査と法定監査以外の監査があります。
(法定監査)
法令等の規定によって義務付けられているものです。主なものは、次のとおりです。
- 金融商品取引法に基づく監査特定の有価証券発行者等が提出する有価証券報告書等に含まれる財務計算に関する書類(貸借対照表や損益計算書等)には、公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないとされています(金融商品取引法第193条の2第1項、同第2項)。
- 会社法に基づく監査大会社及び委員会設置会社は、会計監査人を置くことが義務付けられています(会社法第327条、同第328条)。また、会計監査人を置く旨を定款に定めれば、すべての株式会社は会計監査人を置くことができます。会計監査人の資格は、公認会計士又は監査法人でなければいけません。
- 保険相互会社の監査
- 特定目的会社の監査
- 投資法人の監査
- 投資事業有限責任組合の監査
- 受益証券発行限定責任信託の監査
- 国や地方公共団体から補助金を受けている学校法人の監査
- 寄付行為等の認可申請を行う学校法人の監査
- 信用金庫の監査
- 信用組合の監査
- 労働金庫の監査
- 独立行政法人の監査
- 地方独立行政法人の監査
- 国立大学法人・大学共同利用機関法人の監査
- 公益社団・財団法人の監査
- 一般社団・財団法人の監査
- 消費生活協同組合の監査
- 放送大学学園の監査
- 農業信用基金協会の監査
- 農林中央金庫の監査
- 政党助成法に基づく政党交付金による支出などの報告書の監査
- 社会福祉法人の監査
- 医療法人の監査
など
(任意監査)
- 法定監査以外の会社等の財務諸表の監査(※)
- 特別目的の財務諸表の監査
※法定監査以外の組織のおいても、その組織の財務情報の透明性・信頼性の保証を受けたい組織は、公認会計士の監査をいつでも受けることは可能です。例えば、マンション管理組合など
【税務】
公認会計士は税理士登録をすることにより、税務業務を行うことができます。
税務業務の事例としては、次のようなものがあります(税理士の仕事内容)。
- 税務代理(申告、不服申立て、税務官庁との交渉など)
- 各種税務書類の作成
- 企業再編に伴う税務処理及び財務調査
- グループ法人税制、連結納税制度などの相談・助言
- 移転価格税制、タックスヘイブン税制についての相談・助言
- 海外現地法人、合弁会社設立を含む国際税務支援
- その他税務相談・助言
【コンサルティング】
独占業務ではありませんが、監査業務を行って得た経験を活かして、経営戦略の立案から組織再編、システムコンサルティングなど、経営全般にわたる相談・助言を行うことも可能です。
コンサルティング業務の事例としては、次のようなものがあります。
- 相談業務(会社の経営戦略、長期経営計画を通じたトップ・マネジメント・コンサルティング)
- 実行支援業務(情報システム・生産管理システム等の開発と導入)
- 組織再編などに関する相談・助言・財務デューデリジェンス
- IFRSに関するコンサルティングや業務支援
- 企業再生計画の策定・検証
- 統合報告の実施支援
- 環境・CSR情報の相談・助言
- 株価、知的財産等の評価
- Trustサービス(WebTrust、SysTrustの原則及び基準に基づく検証・助言)
- システム監査、システムリスク監査(システム及び内部統制の信頼性・安全性・効率性等の評価・検証)
- システムコンサルティング(情報システムの開発・保守・導入・運用・リスク管理等に関するコンサルティング)
- 不正や誤謬を防止するための管理システム(内部統制組織)の立案・相談・助言
- 資金管理、在庫管理、固定資産管理などの管理会計の立案・相談・助言
- コンプライアンス成熟度評価
- コーポレート・ガバナンスの支援
【組織内会計士】
公認会計士は多くの一般企業等でも活躍しています。
- 経理業務(財務諸表の作成、M&A、国際税務、連結納税など)
- 財務業務(財務方針・財務戦略の策定、経営分析結果の経営計画への反映など)
- IR業務(経営情報の管理・分析・発信など)
- プロジェクト業務(内部統制の構築、IFRSの導入など)
おわりに
以上、公認会計士仕事内容と税理士の違いについてお分かりになりましたでしょうか。上記の通り、公認会計士の仕事内容は、経営者・経理・財務部門を主に対象として仕事をしており、その他の営業職や技術職の方と多く接する仕事ではありません。そのため、公認会計士の仕事内容につて社会一般的に認知度が低いといえるのではないでしょうか。
因みに監査業務の中に緑色で記載した監査がなにか?不思議に思われた方はおられるでしょうか?当事務所が得意とする監査業務です!学校法人の監査、労総組合の監査も順次受け付けております。
監査法人ではできない、柔軟な対応と費用対効果の高い監査を行っていますので、監査法人からの変更等や新規の会計監査人のご検討を考えておられる中堅・小規模な組織の方からのお問い合わせをお待ちしております!
公認会計士の会計監査制度の歴史を振り返る①
はじめに
日本の公認会計士制度は 2018 年に 70 周年を迎えた。この 70 年間で公認会計士制度は 大きな変化を遂げていますが、その背景には企業における不適切な会計も制度変更に影響を 与えているものと考えられます。 コラムでは過去の粉飾事案を紐解き俯瞰するとともに、その時代ごとに行われた制度改正を振り返ります。個別の粉飾事案と制度改正をすべて関連付けることは困難でありますが、70 年間の変遷 をたどることは、己の資格業務の社会的期待役割を知るうえで有用と考えています。
今回の①では、昭和の時代(1945 年~1988 年)を、次回の②では平成の前半(1989 年~2007 年)を、その後の③では平成の後半である 2008 年以降の粉飾事案、制度改正を取り上げるよていです。
公認会計士監査制度の誕生と成長
この時代は、日本の戦後復興から高度成長期、バブル景気を経て、日本の経済活動が拡大した時代です。そして、日本の経済活動の拡大に呼応して、公認会計士監査制度が整備され、成長を遂げた時代でもあります。この時代の会計・監査制度の主な出来事、経済事象等 は以下の通りです。
・1948年(昭和23年)・・・公認会計士法成立、証券取引法の全面改正
・1049年(昭和24年)・・・日本公認会計士協会成立、「企業会計原則・財務諸表準則」発表
・1950年(昭和25年)・・・上場会社に対する公認会計士監査の義務付け、「監査基準・準則」設定、財務諸表規則の制定
・1951年(昭和26年)・・・公認会計士監査制度の実施
・1963年(昭和38年)・・・計算書類規則制定
・1966年(昭和41年)・・・監査法人制度の創設
・1974年(昭和49年)・・・商法特例法による監査の導入(現会社法監査:会計監査人制度の導入
・1977年(昭和52年)・・・連結財務諸表の制度化、中間財務諸表の制度化
・1982年(昭和57年)・・・商法改正(監査制度強化)、計算書類規則改正
・1988年(昭和63年)・・・計算書類規則改正
日本の公認会計士監査制度は、「公認会計士法」が成立したことに端を発っしています。この法律 が成立する前までは「計理士法」に基づいて計理士が、検査証明業務も行っていましたが、1948 年の証券取引法の全面改正及び 1949 年の証券取引所開設に当たり、証券市場における財務諸表の信頼性確保を担う新たな役割として、1948 年成立の「公認会計士法」のもと、公認会計士が生まれました。 法制度、制度設計が進む一方で、1950 年には「監査基準」及び「監査実施準則」が制定 され、翌 1951 年に初の証券取引法に基づく会計監査(証券取引法監査)が行われました。その後、1957 年 1 月 1 日より開始される事業年度より、証券取引法監査が義務化され、正規の監査として実施されることとなりました。 正規の監査が開始されたころ、日本経済は神武景気( 1954 年~ 1957 年)、岩戸景気( 1958 年~1961 年)、そしてオリンピック景気(1962 年~1964 年)と長い拡大局面と短い後退局 面を繰り返し、段階的な成長を遂げました。しかし、このオリンピック景気後の後退局面において、「日本特殊鋼」、「サンウエーブ工業」、「富士車輛」、「山陽特殊製鋼」など多くの上場企業の倒産や破綻が相次ぎました 。この倒産等を通じてその内情が白日の下に晒された結果、これらの会社の中には、単純な業績不振の会社ではなく、粉飾を繰り返していた会社が多くあったことが判明しました。これは、この景気後退局面に露呈はしたものの、それ以前の好況とされていた局面から繰り返し実施されていたものだったのです。
山陽特殊製鋼事案
粉飾の手口としては、架空売上や各種費用の圧縮、在庫の水増しなどで、詳細な手口の内容までは不明ではあるものの、監査基準で求められる手続を実施すれば見つけられた不正も多くあったものと推察されています。本当に監査人は不正に気づいていなかったのでしょうか。 ここに、この事件が粉飾決算史上 1、2 を争う著名な事件として扱われる理由があります。 同社の監査人たる公認会計士は、大蔵省、東京証券取引所に呼ばれた際に次のように答えたとされています。 「7 年前から粉飾を知っていた。しかし、荻野社長から『明るみに出せば会社が困難な事態に直面するので書かないでほしい』といわれたので押さえた」 つまり、監査人は粉飾の事実に気づいていたが、監査報告書上なんら表現することも無く、適正意見を表明し続けたのです。 これを受け、同社の関与公認会計士については、1958 年 3 月から 1964 年 9 月を虚偽証明期間として、1965 年 9 月 4 日付けで、公認会計士法上に基づく懲戒処分として、登録抹消の処分が行われています。この公認会計士は上述の粉飾の黙認に加え、監査補助者を使用していなかったにもかかわらず、使用していたものとして監査概要書に虚偽の記載を行っていた とのことであり、単独の監査で独立性が保持しにくい状況にあったものと推察されます。
事案を受けての制度変更
当該事案を含む、この公認会計士監査成長期の各種粉飾事案を経て、監査の実効性に大きな疑念が生じたのは言うまでもありません。この監査の実効性への疑念を払拭するために、大蔵省は 1965 年 8 月に「当面の審査方針」を決定し、重点審査を実施しました。その結果、多くの粉飾決算会社が発見され、公認会計士監査制度の制度としての脆弱性が露見することとなりました。そこで、公認会計士法の改正等各種措置が講じられることとなったのです。代表的な制度変更として以下の4つがあります。
・監査法人制度の導入
・監査基準等の改訂
・商法監査(現会社法監査)の導入
・日本公認会計士協会の特殊法人化
組織的監査の発展
山陽特殊製鋼の事案をきっかけとして、( 1)監査法人制度の導入、(2) 監査基準の改訂、( 3)商法監査の導入、( 4)日本公認会計士協会の特殊法人化と大きく公 認会計士監査制度が変わっていきました。 昭和期においては、もう一つ公認会計士制度に大きな影響を与える事件が起きました。それ が不二サッシ事件です。不二サッシ事件は、山陽特殊製鋼の事案と同様に公認会計士が粉飾決算を知りながら、監査報告書にサインをしたとされています。特に問題視されていたのが、公認会計士1人で、監査を実施し、監査報告書にサインをしたことです。 この事件を通じて、1978年9月に大蔵省は、「公認会計士監査における組織的監査の徹底と独立性の保持について」を日本公認会計士協会に通達しています。上記を受けて、日本公認会計士協会は、1979年6月に「組織的監査要綱」を公表しています。このことにより公認会計士監査は、組織的監査へと大きく舵を切ることになったのです。
監査制度の改訂
不二サッシの事案で、公認会計士が故意による虚偽証明を行った要因として単独監査を行っていたことが指摘されました。前述した山陽特殊製鋼の事案をきっかけとして監査法人制度が導入されました。しかし、不二サッシの事案を通じて、個人の公認会計士による単独監査の実施が、監査人の独立性を害した要因として、改めて浮き彫りになり、これに応じて1978年9月に大蔵省は、「公認会計士監査における組織的監査の徹底と独立性の保持について」を日本公認会計士協会に通達しています。また、東京、大阪等の証券取引所は、1978 年9月に「財務内容の適正開示について」を公表し、単独監査をやめ、少なくとも2人以上 の監査責任者を置くように監査体制を整えるように要請しました。 上記を受けて、日本公認会計士協会は、1979年6月に「組織的監査要綱」を公表しています。 「組織的監査要綱」の狙いは、「監査に適する組織を整えるとともに、その運用の妙を発揮し、もって監査の目的を完全に遂行するにある。」とされ、「監査は、一定の方針のもとに指揮命令の系統と職務権限の分担とを明らかにした組織によって遂行されなければならない」としています。 上記は、①指揮命令系統と②職務分担の明確化を定めたものであるとされています。
上記の①指揮命令系統と②職務分担の明確化により、単に複数人による独立性の担保というだけでなく、「組織的監査要綱」の狙いとする監査に適する組織を整え、運用の妙を発揮し、もって監査の目的を完全に遂行することを目指しています。 そして、その後公認会計士監査は、監査法人による監査が中心となっていくこととなります。
おわりに
近年では監査を組織として行うことが一般的になっていますが、監査法人制度導入の狙いは下記の3つであるといわれています。 「①ある程度の規模の人的組織によって、監査を担うことで、組織的監査が可能になる ②ある程度の人数の人間が出資をすることで、財務的基盤を強化し、独立性を高める。 ③組織として監査することで、相互牽制が可能になり、かつ、品質管理システムの維持・運用が可能となる」。監査法人は、この後、合併を繰り返し大規模化して、企業のグローバル化に対応し、IT化に対処していくことになります。しかし、大規模化していく中でガバナンスの問題等が生じることとなるのです。組織的監査が有効に機能するためには、常にその組織の課題を把握し、 改善していく不断の取組みが必要とされると考えられます。
以上は大規模な被監査会社の監査には監査法人の監査が適しているということであり、中・小規模被監査会社の場合は、当事務所のように個人事務所による組織的監査(ベテラン監査人のチームによる監査)が適していると自負しています。
税理士事務所を例に働き方改革!コロナ禍でテレワークが必須?!
はじめに
新型コロナウイルスの感染が広がる中、2020年8月、日本感染症学会が「今、日本は第2波のまっただ中にいる」との見解を示したことが報じられました。さらに感染症シーズンの冬場には、第3波が来るとの見通しもあります。
新型コロナウイルスの感染拡大は、税理士事務所の働き方にも大きな影響を与えています。今後を見据え、テレワークや在宅勤務を導入しようと考えている税理士等士業の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、そのような方へ向けて「コロナ禍でどう対応すべき?税理士事務所の働き方改革!」と題し、お役立ち情報をお届けします。
オンライン会議の上座は?話題になった議論とその顛末
コロナ禍の今、離れた場所でもコミュニケーションがとれるオンライン会議は身近になりつつあります。そうした動きに比例して、オンライン会議にまつわる議論も活発になりました。
たとえば「オンライン会議では何分前に集合したらいいのか?」「服装はどこまで気を付ければいいのか?」など、マナーに関する議論もその一つです。その中でも最近話題を集めたのは、「オンライン会議の上座はどこか?」という議論だそうです。
この議論、当初は新時代到来の足をひっぱる古いマナー意識だとネットニュースで話題になっていたようです。ところが2020年9月、オンライン会議システムの「Zoom」が上座機能を追加したことで状況が一変しました。会議の度に上座の設定で時間をとられていたユーザーのストレスが解消されるとともに、使い勝手がよさそうな機能だとの評判が広まっています。
働き方改革の切り札としてのテレワーク
2017年から、総務省、厚生労働省、経済産業省など複数の中央省庁の連携によって行われている「テレワーク・デイズ」という取り組み。この中でテレワークは働き方改革の切り札として位置づけられています。では、政府の取り組みとして具体的にどのようなことが発表されているのでしょうか。
「テレワーク・デイズ」の発表資料によると、近年のテレワークには2つの変化が見られます。
変化の一つは、制度のあり方です。従来のテレワークは福利厚生的な使われ方であったのに対し、最近では経営戦略として認識されるようになりました。すなわちテレワークは、あればいい制度から、なくてはならない制度へと変化しているのです。
もう一つの変化は、テレワーク制度の対象者です。従来は育児・介護者など一部に限定されていましたが、最近では全社員が対象となりました。テレワーク制度の対象者について、もはや垣根がなくなっています。
また、「テレワーク・デイズ」の発表資料では、テレワークにより生産性が1.6倍向上した事例なども取り上げられています。テレワークは、新型コロナウイルス感染症対策としてはもちろんのこと、生産性向上の面からも導入効果が期待できるのです。
このように働き方改革の切り札として、テレワークは日本全国で大きく推進されています。
コロナ禍で働き方改革が急進!税理士がおさえるべき3つのポイント
では令和の時代、税理士事務所がテレワークや在宅勤務を取り入れる際には、どういった目線が必要なのでしょうか。おさえるべき3つのポイントを順にご紹介いたします。
1:テレワークは、withコロナとafterコロナで考える
withコロナ(ウィズコロナ)とは、ワクチンがまだない中で、3密回避などの手段で感染拡大を防ぐ、現在の状況です。それに対しafterコロナ(アフターコロナ)とは、ワクチンなどである程度コロナ禍をコントロールできるようになった状況を指します。
テレワークを考える際は、withコロナとafterコロナの2つの視点が必要です。つまり、目下の対策と中長期の対策、その両方を検討する必要があります。
たとえば、オンライン会議の導入を検討する際は、顧問先と会うことが制限されているwithコロナの視点から、どのように運用していくかを検討することになるでしょう。加えて、afterコロナの視点から、オンライン会議の運用開始が、長期的に見て顧問先との面会にどのような影響をもたらすかも同時に検討しなければなりません。
2:在宅勤務は、顧問先、事務所、スタッフの三方良しで考える
在宅勤務を導入するかどうか、導入するとしたらどの程度とするか、税理士事務所だけでなく、おそらく日本中の企業が考えていることでしょう。考える際のポイントは、顧問先、事務所、スタッフの三方良しです。
例えば顧問先からオンライン会議ではなく、実際会いたいと要望があったとします。お客様の要望ですから応えないわけにはいきません。しかし同時に、事務所としてのリスクやスタッフの健康面を思うと、戸惑いを感じることもあるのではないでしょうか。
このような場合、顧問先との取引関係を見直し、ときには断る勇気が求められるのかもしれません。コロナ禍においては、お客様ファーストを掲げていればよかった従来と異なり、顧問先、事務所、スタッフの三方良しで考えなければならないのです。
3:基本業務は真っ先にクラウド化を図る
オンライン会議のみならず、インターネットを使って情報をやり取りできるクラウドサービスは、コロナ禍により急速に普及しています。そしてこのようなクラウド化の動きは、働き方改革にも大きな影響を与えています。コロナ禍とクラウド化、この2点は働き方改革が急進している要因となっているのです。
税理士事務所のテレワークや在宅勤務を考えるとき、最大のポイントとなるのは、会計や給与、税務などの基本業務のクラウド化を図るということではないでしょうか。
従来、税理士事務所においては事務所にサーバーを設置するオンプレミスの会計専用機しか選択肢がありませんでした。しかし近年では、安心して利用できるクラウドサービスが登場してきています。その中には、会計、給与、税務など税理士事務所で必要となる業務一式がオールインワンで揃ったクラウドサービスもあります。
顧問先に会うことが制限されている今、オンライン会議のシステムのようなクラウドサービスの活用を検討することも急務ではあります。しかしそれと同時に、税理士事務所においてテレワークや在宅勤務を導入するのであれば、基本業務である会計、給与、税務のクラウド化もそれ以上に大切なのです。
税理士事務所におけるテレワークの実態調査からわかること
実際のところ、テレワークや在宅勤務について税理士事務所ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。
いい税理士が集まるメディア「Lanchor(ランカー)」の運営元であるMikatus株式会社では、2020年5~6月にかけて全国の税理士事務所のみなさん177名(うち税理士146名)を対象に、新型コロナウイルス感染拡大の影響とテレワーク導入に関する実態調査を実施しました。
【調査結果のポイント】
●影響を感じている税理士事務所は69%
●過半の税理士事務所がテレワークを導入済み
●85%の税理士事務所は課題があってもテレワークを運用できていると回答
この調査では、過半の税理士事務所がテレワークを導入済みであることが明らかになりました。日本税理士会連合会(日税連)が4月上旬、テレワーク導入を推進する方向性を示したことも、少なからず影響しているものと思われます。
「テレワークを始めるために、どんなクラウドサービスを導入したのか?」「運用している税理士事務所ではどんな課題を抱えているのか?」
おわりに
多くの税理士事務所にとって、働き方改革とは未知なる領域へのチャレンジともいえるのではないでしょうか。大変な状況ではありますが、苦難に負けず知恵を合わせ工夫してがんばっていきましょう。
成年年齢の引き下げと影響:相続税の未成年者控除の引き下げなど
はじめに
成年年齢が、令和4年4月から、現行の20歳から18歳に引き下げられます。約140年ぶりに成年の定義が見直されることで、何が変わるのか、私たちの暮らしにどのような影響がもたらされるのか、今から心構えをしておきましょう。
未成年者控除
相続人が未成年者の場合に相続開始時の年齢に応じて相続税額から一定額を控除する未成年者控除の対象者が、令和4年4月1日以後開始の相続等から18歳未満となります。
これは上記の通り成年年齢が民法の改正により20歳から18歳に引き下げられることによる見直しで、未成年者控除額は「(18歳-相続開始時の年齢)×10万円」で計算することになります。
すでに、未成年者控除を受けたことがあるものが2回目以降で控除できる額は「“最初の相続等に係る控除可能額”からすでに控除を受けた額の合計額を控除した額」すなわち最初の相続税額から引ききれなかった残額となります。
ただ、今回の改正に伴い、最初の相続等が令和4年3月31日までに、2回目以降の相続等が令和4年4月1日以後に開始すると、2回目以降の控除可能額の計算で用いる“最初の相続等に係る控除可能額”は「(18歳-最初の相続開始時の年齢)×10万円」で計算しなおす必要があります。
例えば、1回目の相続が平成30年(2歳、相続税額100万円)に、2回目の相続が令和5年(7歳、相続税110万円)に開始した場合を想定すると、1回目の控除可能額は180万円(=(20歳-2歳)×10万円なので、相続税から控除される額は全額の100万円となります。一方、2回目は、1回目相続時の年齢が18歳に達するまでの年齢で計算しなおした控除可能額160万円(=(18歳-2歳)×10万円)から既往額100万円を引いた額の60万円(=160万円-100万円)が控除される額となります。
尚、このほか民法改正に伴う見直しとして、相続時精算課税制度における受贈者の年齢要件が令和4年4月1日以後の贈与から18歳以上になります。
おわりに(その他何が変わる?)
成年に達すると、未成年のときと何が変わるのでしょうか。
民法が定めている成年年齢は、「一人で契約をすることができる年齢」という意味と、「父母の親権に服さなくなる年齢」という意味があります。成年に達すると、親の同意を得なくても、自分の意思で様々な契約ができるようになるということです。
例えば、携帯電話を契約する、一人暮らしの部屋を借りる、クレジットカードをつくる、高額な商品を購入したときにローンを組むといったとき、未成年の場合は親の同意が必要です。しかし、成年に達すると、親の同意がなくても、こうした契約が自分一人でできるようになります。また、親権に服さなくなるため、自分の住む場所、進学や就職などの進路なども自分の意思で決定できるようになります。
さらに、10年有効のパスポートを取得したり、公認会計士や司法書士、行政書士などの資格を取得したりすることもできるようになります。
また、女性が結婚できる最低年齢は16歳から18歳に引き上げられ、結婚できるのは男女ともに18歳以上となります。
一方、成年年齢が18歳になっても、飲酒や喫煙、競馬などの公営競技に関する年齢制限は、これまでと変わらず20歳です。それは健康面への影響や非行防止、青少年保護等の観点から、現状維持となっているようです。
年末調整手続電子化10月からスタート
はじめに
10月からスタートする年末調整手続の電子化では、従業員が、保険料控除等の証明書(控除証明書等)をデータで取得することになりますが、データで取得できないケースもあるということです。
年末調整手続きの電子化
これまで主に紙ベースで行ってきた
① 控除証明書等の取得
② 年末調整申告書の作成
③ 勤務先への提出
以上を電子化し、手続を簡便化するものです。保険会社などからデータで取得した控除証明書等を、国税庁が無償提供する年末調整申告書の作成ソフトウェア(年調ソフト)等にインポートすれば、自動入力、控除額の自動計算が行われ、従業員の申告書の作成が容易になります。
勤務先においても、チェック・検算や給与システムへの入力が不要となるなどのメリットがあります。
これらのメリットのいくつかは、控除証明書等のデータでの取得が前提となります。
ただし、発行者である保険会社等においてデータでの提供が義務ではないことも有り、今年は準備が整わず、顧客への控除証明書等のデータでの提供を見送るケースもあるようです。
税務署が発行する住宅ローン控除証明書についても、データで提供できるのは、居住年が令和元年(平成31年)以後のものに限られています。
さらに、居住開始年分の確定申告書をe-Taxで提出し、e-Taxによる電子データでの交付を希望することが必要となります。
おわりに
控除証明書等をデータで取得できなかった場合、従来通り紙で提出することになりますが、紙とデータでの提出が混在することになりますが、紙とデータでの提出が混在することに法律上の問題はありません。紙で提出する場合でも年調ソフトの仕様などにより一定のメリットは得られるということです。
また、電子化は段階的に行うことも可能です。
今年は、控除証明書等の提出は従来通り紙のみとし、年末調整申告書は年調ソフトを使って作成・データで提出するといった対応なども可能です。まずは、今年の電子化の方針を決定することが必要となるでしょう。
法人が中間申告をする場合の実務ポイント(コロナ禍、公認会計士からのアドバイス)
はじめに
新型コロナウィルス感染症は経済活動に大きな影響を与えており、資金繰りの関係から中間申告について、前年度実績による予定納税ではなく、仮決算によることを検討している法人も多いと思われます。今回は法人税の中間申告、対象、方法、計算の仕方、コロナ禍の特例など、基礎的なことからコロナ禍の特例について記載します。
法人税の中間申告、納付とは何?
前事業年度の法人税額が20万円を超えると、翌事業年度に法人税の中間申告と納付を行う必要があります。この中間申告は、課税期間で確定申告することにより決める年税額の前払いをしているイメージです。そのため、中間申告をして、納付した税額があるときは、確定申告をした際に中間申告で納付した税額が控除されます。また、控除しきれなかったときには払い過ぎとなった税金が還付されます。
この中間申告には1.予定申告という方法と2. 仮決算にもとづく中間申告の2つの方法があります。
(参照元URL:国税庁HP 中間申告の方法)
法人税の中間申告の対象となる人、時期
中間申告が必要なのは、前事業年度の法人税額が20万円を超える場合です。中間申告が必要となったとき、その提出期限と税金の納期限は、事業年度開始後6月を経過した日から2月以内です。なお、法人税の中間申告の対象となる人は、地方税(都道府県税、市町村民税、事業税等)についての申告も必要です。
中間申告の方法、計算の仕方など
中間申告には1.予定申告という方法と2. 仮決算にもとづく中間申告の2つの方法があります。
- 予定申告による場合は、前事業年度の法人税の2分の1の額が法人税額となります。法人税額の計算方法は、「前事業年度の確定申告書に記載すべき法人税額を当該前事業年度の月数で除し、これに6を乗じた金額」と規定されています。そのため、まず、前事業年度の確定申告書に記載すべき法人税額を前事業年度の月数で除して(円未満の端数切捨て)、その整数値に6を乗じて計算します。なお、100円未満の端数は切捨てします。
- 仮決算に基づく申告方法では、その事業年度開始の日以後6か月の期間を1事業年度とみなして法人税額を計算します。
予定申告をするときは、税務署から送られてきた予定(中間)申告書用紙に必要事項を記入した上で、捺印をして税務署に提出します。この予定(中間)申告書用紙については、前事業年度の法人税の確定申告書をe-Taxにより提出した場合は、税務署から送付されません。予定申告書用紙を送付しない法人に対しては、「法人税予定申告のお知らせ」がe-Taxの利用者本人のメッセージボックスへ送信されます。e-Taxソフトを使用している場合には、このお知らせ内容から「法人名」、「納付すべき税額」等の欄が初期表示された予定申告書の作成画面に移り、作成・送信することができます。
なお、後述しますが、中間申告については、申告書を提出しなかったとしても、自動的に申告があったものとみなされます。仮決算に基づく中間申告を行う場合は、中間申告対象期間で年度決算と同じように法人税の申告書を作成し、提出します。仮決算をした場合は、中間申告書に、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び勘定科目内訳明細書等を添付して提出する必要があります。年度の確定申告書の添付書類とは異なっていますので注意してください。
中間申告は電子申告できる?
中間申告であっても、事業年度末の確定申告と同様にe-tax・eLTAXを利用して電子申告をすることができます。また年度と同様にダイレクト納付を利用して納税することもできます。
中間申告の勘定科目、仕訳方法
中間申告で納付した法人税等はあくまで年税額が確定していない段階での仮払いのような状態です。そのため、納付した法人税等の額を「仮払金」や「未払法人税等」のマイナスとして処理するのが一般的です。年度決算で法人税等の額が確定したときに、仮払金を取り崩し、年税額との差額が未収入金(未収法人税等)もしくは未払法人税等となります
もしくは、納付した法人税等を「法人税、住民税及び事業税」の勘定科目で計上することもあります。
中間申告をしなかった場合の特例
中間申告書の提出がない場合の特例が設けられており、中間申告書の提出が必要な事業者が提出期限までに中間申告書を提出しなかったときは、その提出期限の日に中間申告書の提出があったものとされ、前事業年度の法人税の年税額を基準にして計算された法人税額が確定することとなります。
なお、納付すべき法人税等の納付が遅れた場合、実際に納付した日までの延滞税を本税と併せて納付しなければなりません。
納税額が少なくなる方を選択することも
年度の法人税の支払についてはしっかりと把握していても、中間申告については時期や金額をうっかり忘れてしまっていることもあります。そんなときは、突然の税金の支払で資金繰りに慌てることになるかもしれません。中間申告について理解した上で、事前に資金計画の中に織り込んでおきましょう。また、予定申告でするか、仮決算に基づく中間申告をするかは、事前の届出も必要ありませんので、都度選択することができます。そのため、どちらか、納税額が少なくなる方を選択するということもできます。
新型コロナウィルス感染症の影響による期限の延長
災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、納付等につき、期限までにこれらの行為をできないと認められるときは、そのものの申請により、その期限を延長することができ(国通法11)、この規定による期限の延長については利子税、延滞税がかかりません。
新型コロナウィルス感染症の影響については、経理担当部署の社員が感染し部署を相当期間閉鎖しなければならなくなったこと等により通常の業務体制が維持できない状況が生じたことなどの理由により、申告書や決算書類などの申告・納付の手続きに必要な書類等の作成が遅れ、その期限までに申告・納付等を行うことが困難な場合などが該当しますが、このような理由以外であっても、感染症の影響を受けて期限までに申告・納付が困難な場合には、期限の延長ができます。
現状は、申告の際、申告書等の余白に「新型コロナウィルスによる申告・納ス期限延長申請」である旨を付記すれば適用できることとされており、申告期限及び納付期限は原則として申告書の提出日となります。
中間申告においても同様で、中間申告書の提出ができることとなった時点で、その提出の際に、その申告書の余白部分に提出期限の延長申請である旨を記載して提出することにより、事後的に提出期限の延長が認められます。
さらに、中間申告書を提出することが困難な状態が確定申告書の提出期限まで続く場合には、中間申告書の提出は不要となります。この場合、確定申告書のお提出の際に、確定申告書の余白に、中間申告書は新型コロナウィルス感染症の影響により提出できなかった旨を記載します。その際の納付については、中間申告での納付がありませんから、確定申告書で1年分をまとめて納付することとなります。
現状のコロナ禍、中間申告についても柔軟な取り扱いができることとなっていますので、これから中間申告を控えている法人の経理担当の方は十分これらの取扱についてアンテナを張って国税庁等の発する最新の情報を入手するようにしてください。