会計監査:粉飾決算等の「不正」の発覚が減少したのはリモート監査が原因か?!

会計不正

はじめに

22の都道府県で緊急事態宣言が9月12日まで発出されている現状、新型コロナウイルス感染症の陽性者数は日々2万人を超える状況が続いています。

このような状況下、大手監査法人では会計監査をリモートで実施しています。

一方、コロナ禍前の、会社等の現場での監査の実施は、担当者(経営者を含む)に質問し、監査証拠となる証憑等書類の提示を求めるなどそれぞれの担当者にヒアリングを実施し、その際の担当者の受け答えなど反応も監査証拠の強弱に繋がる場合が多いと考えられます。

リモート監査の問題点

特に、何十年も監査を実施しているベテラン会計士ほど、会社等の担当者(以下経営者を含む)の質問に対する答える様子を観察することにより、信頼性の有無がある程度わかるものです。

それは、ベテラン刑事が容疑者を聴取するのと同様に考えてもらえるとわかりやすいかと思います。

会計監査の現場では、罪を犯したかもしれない容疑者ほど嘘をつく可能性はもちろん低くなります。会社等の担当者の99.9%は嘘をつく必要がないと言っても過言ではないでしょう。だから、逆に質問に対する不自然な回答(不自然な態度)があった場合の不自然さについては敏感になります。

リモート監査においては、zoomなどでパソコンを通して質問することもありますが、多くは電話での質問がほとんどとなります。或いは、メールでの質問と回答が多くなります。そのような状況で、粉飾や資産の流用を見抜くのは容易なことではないというのが実情ではないでしょうか。

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「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」(研究資料)

日本公認会計士協会(JICPA)は、7月29日、経営研究調査会研究資料第8号「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」(研究資料)を公表しました。本研究資料は上場会社とその関係会社(上場会社等)が公表した会計不正を集計し、取りまとめたものです。「2021年版」では、ここ5年間のうちでは会計不正の公表件数が最小の25社だったことや、内部通報により不正が発覚したケースの割合が減少したことなどを記載しています。

不正とは

JICPAは「上場会社等における会計不正の動向」を2018年から年次で公表しており、今回の「2021年版」は2016年4月から2021年3月に適時開示などで公表された上場会社等の会計不正を集計したものです。

研究資料では、「会計不正」に関して、JICPAの監査基準員会報告書240「財務諸表監査における不正などを参照しつつ定義づけしています。すなわち、財務諸表の利用者を欺くために財務諸表に意図的な虚偽表示を行う「粉飾決算」と、従業員により行われ、比較的金額的に少額であることが多い「資産の流用」の2パターンに分類しています。明確に区分できないものについては「粉飾決算」に含めています。

会計不正の公表会社数の推移

こちらの公表会社数は、上場会社が東証の基準によって適時開示により公表した会社数であり、軽微な粉飾や資産の流用などはもちろん含まれません。上場会社以外の公認会計士監査を受ける会社等で、粉飾等が発見される件数はこの数字の数十倍はあるとお考えください。

2017年3月期・・・・・26社

2018年3月期・・・・・29社

2019年3月期・・・・・33社

2020年3月期・・・・・46社

2021年3月期・・・・・25社

上記において、不正の内容について「粉飾決算」と「資産の流用」に分類すると、2021年3月期は件数ベースで77.1%が粉飾決算に該当しています。

粉飾決算についてはさらに詳細に手口を分析すると、「収益関連科目は会社にとって重要な指標の一つであるため、売上を過大に計上する等の会計不正が多く発生していると考えられる」と研究報告では記載されています。

収益関連の不正は、売上の過大計上、循環取引、工事進行基準などとなります。

上記の内容も、上場会社特有の不正であり、株価を意識した経営者不正ということになります。

当事務所の監査対象組織は、非上場会社や学校法人・医療法人等であり、上記のような収益の過大計上等の粉飾決算よりは、「資産の流用」の方が不正としては多いかと思われます。

不正の発覚経路

不正の発覚経路に関して、内部通報により発覚するケースが減少しているようです。

また、不正の発生場所については、「本社」、「国内子会社」「海外子会社」に区分した上でそれぞれ件数を集計しています。「2021年3月期は、2020年3月期と比較して、本社及び海外子会社のおける不正の発覚件数がほぼ半減しているのに対し、国内子会社における不正の発覚件数がほぼ同数であることが特徴的である」としています。

これを私なりに分析すると、リモート監査により本社や海外子会社に対する監査が十分に行えていないと考えます。一方、国内子会社は、本社の内部監査により、外部監査ではなく、内部監査機能が一定割合維持できているため、不正はほぼ同数であるのではないかと推測します。

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おわりに

以上、上場会社における「会計不正」の発覚が減少していることについて、JICPAの研究資料で確認できましたが、これは最初に述べた通り、公認会計士監査のリモート化により、「粉飾決算」「資産の流用」の両方で不正が減少しているのではなく、発覚が減少しているのだと推測します。

今後、ワクチン接種の更なる普及により、公認会計士の外部監査も現場で監査できるコロナ禍前の状態に戻ることになるでしょう。その折には、コロナ禍で発覚していない「会計不正」が発覚し、2022年3月期は、上場会社の会計不正の公表会社数が激増することが予想されます。われわれ、公認会計士も「会計不正」について監査意見に影響しないか慎重に見極めながら監査を行う必要があります。

特に、当事務所の対象の非上場会社等においては、従業員等における「資産の流用」に留意して監査を行っていく方針です。

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横田公認会計士事務所は、非上場の会社法監査、医療法人の会計監査、学校法人の会計監査、労働組合の会計監査など上場会社を除く会計監査に特化した監査事務所です。

上場会社を監査している監査法人と比較し、費用面を抑えて実質的な監査を行うことを基本方針にしています。効率性の高い会計監査を目指しています。

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